小噺・衆道談義

※総司に夢を見たい方は、今回の小噺はお読みにならないで下さい。


「土方さん、ちょっと訊きてェんですけども」
「何でェ」
「昔、夜に俺の枕元に、隊士がひとりすわってて、えらいびびったことがあったんですけど、あれァ何だったんですかねェ」
「あァ?」
「いや、最初は、あんたんとこの小姓が、また夜中に剣の握り方ァ訊きにきたのかと思ってたんですけどね。それにしちゃあ気配がねぇし、黙ってにこにこしてんのが、また不気味でねェ。まァ、小半時ばかり他愛のねェ話したら、にっこり笑って帰っていきましたけど――あれァ一体何だったんですかねェ」
「……その隊士ってなァ、綺麗な顔してたのか」
「――土方さん」
「何だ」
「あんたァ、俺に“色男の判断が当てにならねェ”とか云っときながら、そういうことを訊きやがるんですかい?」
「……おめェに訊いた俺が馬鹿だった。しかし、まァ……(溜息)」
「で、わかるんで?」
「……――その隊士とやらも、可哀想なもんだなァ(遠い眼)」
「だから何ですよ!」
「つくづく、おめェは野暮天だなァ、総司。俺ァ、そいつのことを認めたいたァ思わねェが、気の毒だとは思っちまうぜ」
「ひでェこと云われてんなァわかりますが、そっちァさっぱりわかりませんや」
「……野暮天」
「だから何ですって!」
「あァいい、いい、もう昔の話だろ。――しかし、そうか、おめェをそういう相手に選ぼうってェ奇特な奴もいるんだなァ」
「……もしかして、衆道の契りの話をしてるんですかい?」
「今までわからずに聞いてやがったのかよ」
「だってあんた、衆道大嫌いじゃねェですかい。そのあんたが、今みてェなことを口にするなんざ、誰だって思いませんや」
衆道は嫌ェだが、そいつの気持ちもわからねェでもねェって云ってんだ」
「……でもねェ、実際そいつが――ほんとに俺に惚の字だったとしてですよ――想いを遂げりゃ、隊規違反じゃねェですかい」
「それァそれ、これァこれだ」
「……都合の宜しいこって」
「やかましいわ!」
「大体、あれでしょ、あんたの衆道嫌いは、奉公先の番頭が元なんでしょ。十七ん時でしたっけ、それからずいぶん引っ張ってますよねェ」
「……五月蝿ぇよ」
「云っときますけどね、俺はあれとして、あんた狙ってた奴ァ、実は結構いるんですぜ? 伊東先生も、あんたが副長でさえなきゃあ、間違いなく手ェ出してたでしょうし、ああそうそう、観柳斎には手ェ出されてましたよねェ」
「そのこたァ云うな!」
「あれ〜? だって俺、あれに関しちゃあ恩人でしょう? 礼のひとつもあっていいんじゃねェんですかねェ?」
「……鍵屋の葛きり食わせてやったろう」
「――今度、内藤新宿で追分団子食わして下せェよ。それで勘弁して上げまさァ」
「……二重に礼をしろってェのかよ」
「葛きりは口止め料、団子が礼でさァ。――あァ、観柳斎と云えば、俺が股座蹴り上げてやったあとも、元気に可愛いのの尻追っかけまわしてやがりましたねェ。つくづく元気な野郎だってェ、一ちゃんと云ってたんですけど」
「……あいつァ、最後まで懲りねェ奴だったなァ」
「まァ、そうですねェ。それァともかく、観柳斎の話を一ちゃんとしてた時に、“野郎同士で乳繰り合いたいとは思わない”ってェ、あの調子で一ちゃんが云うんで、俺も返して“そうだなァ、野郎同士で股座まさぐり合うのはちょっとなァ”って云ったら」
「……総司ィ(脱力)」
「一ちゃん、渋い顔で“生々しい話はするな!”って――あれ、土方さん、どうかしました?」
「俺ァ今、一の奴に猛烈に同情してるとこだ……」
「え〜? でも、そういうことじゃねェですかい。“乳繰り合う”は女とやるんで、野郎同士なら“股座まさぐり合う”が正しいでしょう?」
「――わかっちゃいたが、おめェの口ってな、何でそう……」
「何ですよ、生娘みてぇなこと云って……」
「おめェの了見がおかしいってんだよ!」
「何でですよ。原田さんとか、こんなこたァよく口にしてたじゃねェですかい。何で今さら、俺だけそんなに云われるんですよ」
「俺のまわりじゃあ、そういうもの云いは許さねェ」
「――何なんですよ、もう……そう云や、隊内でも衆道はよく流行りましたよねェ。あれだ、お西さんに屯所移した時なんか、稚児姓に熱上げてる隊士の多かったこと!」
「……俺ァ、正直、不動堂に移ったときァ、心底ほっとしたぜ。何だって寺ってなァ、衆道が大流行りなんだよ」
「女犯が禁止だからだって、あんた、自分で云ってたじゃねェですかい。まァ、でも、あれは結構いろいろありましたよね、近藤さんがお稚児にぐらっときたりとかねェ」
「……思い出したくもねェ(怒)」
「あんたァ、近藤さんに凄い形相で食ってかかってましたもんねェ。“あんたが衆道に走るなら、絶交だ!”とか云ってねェ――子供の喧嘩かいと思いましたけどね、俺は」
「――局長自らが、法度破りしてどうするんでい」
「ま、そういうことにしておいてあげてもいいですけどね。――絶対あんた、副長でなかったら、誰ぞに手篭めにされてましたぜ」
「恐ろしいことを云うな!」
「だってあんた、そう云う意味では隙だらけだったじゃねェですかい。――そう云やあんた、お西にいた時、お稚児に熱いまなざし送られてましたぜ。気がついてました?」
「……知るかい」
「気がついてなかったんですかい。何だ、勿体ねェなァ(笑)」
「女以外にゃもてたかねェや」
「何云ってるんです、土方さん。男にだって、もてるにこしたこたァねぇんですよ? 世の中、衆道者の方が出世しやすいように出来てるんですからねェ(爽笑)」
「――そんな世の中なら、俺ァ、出世できなくても一向構わねェぜ……(溜息)」
「あはははは」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。
鉄ちゃんや一ちゃんの話と迷ったのですが、今回はこれで! 
つーかもう、総司の口が! 今回はそれ!
私自身の名誉のために云っておきますが、今回の総司の生々しい発言は、私が考えたわけじゃあないんで! 聞いた話ですんで! そこんとこ宜しくお願い致します。いくら男と思われやすくても、そこまで野郎になった覚えはないんで。ホントに。
つーか、男ってな、こんな話平気でやりやがるのかよ……品がなさ過ぎです。


しかし、一応、元腐女子なのですが(ホントに!)、今回の話は、ホントに萌えがねェなァ――いや、私、その手の話も読むのは読んでますがね、ネットとかで。流石に、舞踏会(笑)でドレスを調達するほどではありませんが(笑)。
それにしても、どうにも今回のは……肉・欲! ってカンジで、何だかねェ。
いくら自分内、新撰組が萌えポイント皆無だからって、これもどうだ。


あああ、ホントにそろそろログをサイトUPしないと……
しかし、鉄ちゃんの話は、考証とかしなおさないといけないんで、暫く凍結だな(続きは書きますよー)。鬼の話と平行していくと、割と(私が)わかりやすいような。が、頑張ろう。


次は多分、その鉄ちゃんの話の続きで。