2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

北辺の星辰 56

回天は、夜を徹して北へと航行した。 並走する船影はない――ただ一隻、北へ北へと進み続ける。 漆黒の空には、爪跡のような細い月が浮かんでいる。それを背に、北辰を標に、回天は進んでゆく。 海を渡る夜風の音と、船首が波を砕く音、帆を支える檣竿と、それ…

小噺・閑話休題 其の四

「あれ、仏頂面でどうしたよ、ハチ?」 「コタか……別に(脹れ)」 「(吹き出し、膝を打って)何拗ねてんだよ、“別に”って! っつぅか、帰りだろ、どこ行ってたんだ?」 「……歳さんところ(不機嫌)」 「(ぴんときて)ははぁ、また向こうの誰やらに邪魔にされたんだ…

神さまの左手 31

ともかくレオナルドは、絵の構図を考え出すことにした。 磔刑図は、正直もう捻りようがないので措くとしても、最後の晩餐図に関しては、レオナルドも思うところがなくはなかったのだ。 レオナルドのかつての居所、フィレンツェには、ギルランダイオやカスタ…

半色 四

※若干の男×男的表現がございます(ぬるいので畳みませんが)。閲覧の際は、自己責任でお願い致します。 重盛と成親は、そ知らぬ顔で数日を過ごした。 件の小冠者は――実は、既に上西門院の蔵人となっていたのだが――、小耳にはさんだところでは、あれから病に伏…