2008-09-01から1ヶ月間の記事一覧

北辺の星辰 34

五稜郭を出立した歳三たちは、箱館から遠からぬ有川で、まずは最初の宿陣をすることになった。 と云うのも、松平からの命で、この有川で、江戸より帰還した渋谷十郎なる松前藩士らと、会談を持つことになっていたからだ。 渋谷ら七名は、江戸滞在中に抗戦派…

小噺・茶の湯四方山

「いやァ、土方さん、こないだの月見はすごかったですねェ」 「あ? 仲秋の名月のことかよ? ……すごいったって、俺ァ、阿部さんと井伊のと一緒に、ひたすら茶ァ飲んでただけなんだがな?」 「あァ、彦にゃんァ、観月の茶ァ、えらく楽しみにしてましたからね…

神さまの左手 10

舞台の上は、光に満ちていた。 色鮮やかな衣に身を包んだ役者たち、それを照らす数知れぬ蝋燭の焔、その焔の光を跳ね返す数多の飾り―― 確かに、それは天国の写し絵と云っても良かっただろう。 ダナエ役の役者が細い声で、ユピテル役の役者が朗々と、台詞を曲…

北辺の星辰 33

五稜郭入城の翌々日、すなわち十月二十八日、歳三は、額兵隊、陸軍隊を率いて、松前攻略に赴くことになった。 先鋒の彰義隊は、既に前日、松前に向かって出立している。歳三率いる本隊には、砲兵及び工兵が随従し、後軍は衝鋒隊の半数が、副長の永井蠖伸斎を…