2007-09-01から1ヶ月間の記事一覧

めぐり逢いて 26

湯を使い、髭をあたり、髪を整え、新しい衣――主の子息のものだと聞いた――に袖を通す。久方ぶりに、こざっぱりとした装いになった。 食事を摂って、ようやく人心地ついたところで、鉄之助は主に呼ばれた。 茶の間の隣りの仏間に通されると、主と、その妻女が…

北辺の星辰 18

九月朔日、歳三は仙台に到着、その足で、東名浜に碇泊している開陽に、榎本釜次郎を訪ねた。 船室に通された歳三の前に、ややあって、榎本たちが姿を現した。 「やぁやぁ、お久しぶりです、土方さん」 云われて立ち上がった歳三は、榎本の傍に、見知らぬ男が…

小噺・箱館新政府

「……土方さん」 「何でェ」 「あんた、箱館じゃあ、結構大変だったんですってねェ(しみじみ)」 「……どうした総司、何か悪いものでも喰ったか?(真顔)」 「……何でそうなるんですよ」 「いや、おめェがそんなこと云うなァ、具合が悪ィか、何か企んでるときかく…

めぐり逢いて 25

港々で足止めされて、横濱に着いたのは、六月に入ってからのことだった。 「私が助けてやれるのは、ここまでだ」 船を下りる時、見送ってくれた松木が云った。 「この先は、君が独りで往かねばならない。――官軍の幕軍残党狩りは、まだ続いていると聞く。気を…

北辺の星辰 17

歳三は、翌二十二日、若松城北の滝沢本陣まで馬を駆った。 こちらも、母成峠の敗走のあおりで混乱を極めており、庄内行の話を誰に持ってゆけばよいかもわからぬような有様だった。 ともかくも、誰か話のできるものをと思っても、大鳥も行方不明、会津の諸将…