2009-02-01から1ヶ月間の記事一覧

北辺の星辰 38

沖合に見える船体は、大きく傾いで波に打たれていた。 「昨夜の大風で煽られて、岩場に乗り上げてしまったと云うことらしいのです」 衝鋒隊を率いる永井蠖伸斎は、そう云って、疲れたように吐息した。 「……では、開陽は動けないと云うことなのか」 と問うと…

小噺・甲賀源吾の儀

「……土方さん」 「おゥ、何でェ。……耳押えて、どうした?」 「いえね、さっき街中で甲賀さんに呼び止められて、それで耳が痛ェんでさァ」 「あ?」 「いや、あん人、すげェでっけェ声で呼ぶじゃねェですかい。で、そのまんまの声で、俺の近くで話しなさるん…

神さまの左手 14

サライは、ミラノでの二度目の新年を迎えていた。 この年、サライは十二歳になった。 ミラノでの暮らしにもすっかり慣れ、最近では――絵こそ描けないものの――レオナルドの弟子としての立ち振る舞いも、すっかり板についてきた。相変わらずの“大食らい”で、お…

北辺の星辰 37

松前藩兵の放った火によって、城下はかなりの広範囲が焼け、その後始末もあって、歳三たち陸軍兵は五日ほど、この松前城下に宿陣した。 後始末と云っても、投降してきた松前藩兵の処遇を決めたり、炊き出しの手筈を整えたりする程度のことで、実際に焼け落ち…