2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

左手の聖母 21

「あんた、そろそろフィレンツェに帰った方がいいぜ」 唐突に、サライが云った――ようやく春の気配が感じられるようになった、とある日のこと。 ミケランジェロは驚愕したが――同時に、何となく、そう云われる予感のあったことにも気づいていた。 「俺が、邪魔…

左手の聖母 20

収穫祭が終わると、段々秋の気配が冬のそれへと変わっていくのが感じられるようになってきた。 葡萄の木はすっかり葉を落とし、冬の眠りに入りはじめたようだ。 ミケランジェロも、朝晩の冷えこみで、背中や腰が痛むようになってきていた。 「ミラノは寒いか…

左手の聖母 19

九月も半ばになったころ、サライが唐突に云った。 「もうじき収穫祭だけど、あんたも出るよな?」 「収穫祭?」 「うん、葡萄のな」 そう云えば、この間から空気が甘い匂いに満ちているなと、ミケランジェロは改めて思った。 熟れた果実の甘さと、葡萄特有の…