夢跡花伝

花がたみ 〜雪〜 四

「四郎叔父貴、己を得度させてくれそうな御坊をご存知ないか」 やってくるなり、五郎は両手をついて、そのように切り出してきた。切羽詰まったような、すがるような声音であった。 「そ、それはいくつか知ってはおるが――お前、座はどうするつもりだ、兄者の…

花がたみ 〜雪〜 三

新たに座を立てるにも、金が充分にあろうはずはなく。 金策は、伊賀の長兄・小太郎に頼んで、都合をつけてもらうことにした。 「三郎も三郎だが、お前も大概無手法だな、四郎よ」 杉ノ木の館で迎えてくれた長兄は、そう云って溜息をついてきた。 小太郎兄は…

花がたみ 〜雪〜 二

応永十五年、御所――鹿苑院殿が薨じられた。御歳五十二であった。 御所は、数年前に将軍の座を御嫡男・義持公に譲っておられたのだが、実験は未だ手放されず、義持公の胸の裡には、大きな不満がくすぶっておられたようだった。 義持公が政の実験を握られると…

花がたみ 〜雪〜 一

父が旅先の駿河で没したのは、自分が十六の歳のころだった。 浅間神社での奉納舞の後、病に倒れ、そのまま帰らぬ人となったのだ――享年五十二歳。大往生と云うには早いが、老境にさしかかってのちの死であったから、悲しみ嘆く心よりも、むしろ驚愕と、途方に…