2015-01-01から1年間の記事一覧

北辺の星辰 73 (完結)

――さて、最後の大舞台だ。 歳三は、躍る胸を抱えながら、軍装を整えた。 時刻は午前四時を過ぎたところ、東の空は徐々に明るくなってきている。 稜堡に囲まれた五稜郭庁舎からでは、市街や湾内の戦いの様子を見ることはできなかったが、耳を聾する砲撃の轟き…

北辺の星辰 72

案内されたのは、四畳半の小間だった。 大広間からはそれなりに離れているので、喧騒もほとんど気にならない。 妓楼の小間であるからには、そういうことに用いられる部屋なのだろうが、箱館府の首脳の酒宴が開かれるとなって、皆ここを使うのを避けたのだろ…

北辺の星辰 71

五月三日、四日、五日の三日間、陸軍方で、南軍との小競り合いが幾度かあり、七日には箱館湾内で海戦があった。 敵方の戦艦は春日、朝陽、それに加えて宮古湾海戦で奪取し損ねた甲鉄艦であり、それを聞いた歳三は、あの戦いで目的を達しえなかったことを後悔…

北辺の星辰 70

二日、ブリュネやカズヌーヴら仏軍士官らが、自国の船に乗って、箱館を落ちていった。 「まぁ、仕方なかろうな」 訊ねていった千代ヶ岱陣屋で対面した中島三郎助は、そのように云って茶を啜った。 「もはや戦局はいかんともし難いことになった――南軍が英米の…

北辺の星辰 69

「――おやおや珍しい。奉行御自ら、わざわざのお運びたァ」 伊庭の声は、かすれてはいたものの、昔どおりの気の強さを思わせるものだった。 「昨日まで二股口でな。今日になって帰参したんだ」 応えながら、歳三は、改めて旧友の顔をまじまじと見た。 痩せた…

北辺の星辰 68

五月一日、歳三たち二股口守備隊は、五稜郭に帰参した。 負けなしの戦いを切り上げて退いてこざるを得なかった兵たちは、やや不満げな面持ちではあったのだが、歳三としては充分以上の成果はあったので、気分はまぁ上々と云えなくもなかったのだ。 「無事帰…

左手の聖母 22(完結)

サライが死んだ。 バッティスタからの手紙によれば、ミケランジェロが帰ってすぐ、サライはあの家の中で、銃で撃たれて死んだのだと云う。下手人は、まだ捕まってはいないと云うことだった。 家中を逃げ回ったものか、家具は倒れ、ものは床に散乱して、ひど…

左手の聖母 21

「あんた、そろそろフィレンツェに帰った方がいいぜ」 唐突に、サライが云った――ようやく春の気配が感じられるようになった、とある日のこと。 ミケランジェロは驚愕したが――同時に、何となく、そう云われる予感のあったことにも気づいていた。 「俺が、邪魔…

左手の聖母 20

収穫祭が終わると、段々秋の気配が冬のそれへと変わっていくのが感じられるようになってきた。 葡萄の木はすっかり葉を落とし、冬の眠りに入りはじめたようだ。 ミケランジェロも、朝晩の冷えこみで、背中や腰が痛むようになってきていた。 「ミラノは寒いか…

左手の聖母 19

九月も半ばになったころ、サライが唐突に云った。 「もうじき収穫祭だけど、あんたも出るよな?」 「収穫祭?」 「うん、葡萄のな」 そう云えば、この間から空気が甘い匂いに満ちているなと、ミケランジェロは改めて思った。 熟れた果実の甘さと、葡萄特有の…

左手の聖母 18

季節は、あっという間に過ぎていった。 秋のはじめ、サライを訪ねてきたものがあった。 「スイスへ行くんだ。……一緒に行かないか、サライ」 明るい青の瞳の、がっしりとした身体つきの男は、来るなりサライにそう切り出してきた。 「いつまでもここに閉じこ…

左手の聖母 17

暫く経ったある日のこと、ミケランジェロはふと、例のレオナルドの部屋の扉が開いていることに気がついた。 夜ではなく、真昼にだ。 珍しいこともあるものだと思って、戸口から覗きこむと、サライが重い鎧戸を開け放っているのが見えた。 「何をやってるんだ…

京都古典紀行 3

京都紀行最終日、洛南(?)篇(っても、今回南っ方ばっかでしたな……)。 お暇と心の余裕のある方は、下からどうぞー。

京都古典紀行 2

京都紀行二日目、醍醐寺篇。 お暇と心の余裕のある方は、下からどうぞー。

京都古典紀行 1

はっはっはー、また紀行です、スミマセン…… お暇と心の余裕のある方は、下からどうぞー。