蓮台夜話

奇しき蓮華の台にて 〜紅〜 四 (完)

弘仁七年は、最澄にとって、大きな節目の年になった。 奈良の僧綱の隠微な厭がらせによって、天台一乗の布教は進まず、その上、奥州に在る法相宗の僧・徳一が、天台の教義についての疑問を記した『仏性抄』を送ってよこしたのだ――法相は、南都六宗の中でも大…

奇しき蓮華の台にて 〜紅〜 三

最澄は、密教を、叡山にいながらにして学ぼうとしていた。 となれば、むろんその方法は、空海の求める面授――師と対面して直接に教えを受ける――ではなく、書物による筆授である。 幸い、大日経は手許にあるし、金剛頂系の重要な経典である『理趣経』――正式に…

奇しき蓮華の台にて 〜紅〜 二

※ぬるいですが男×男描写がございます。最澄がお好きな方及び天台宗の方は、お読みになられない方が宜しいかと思われます…… 叡山へ戻って一息ついた十一月五日、最澄は、泰範へと文を出した。 「比叡山の老僧・最澄、敬って白す。 受法灌頂すべき事 右、最澄…

奇しき蓮華の台にて 〜紅〜 一

※最澄がお好きな方、天台宗の方は、閲覧をお止めになった方が宜しいかと思われます…… 泰範が叡山を下りて、近江高島郷の自坊に引きこもってしまったのは、弘仁二年の夏のことだった。 取り残された最澄は、わけがわからなかった。 最澄が唐土より帰還して六…

奇しき蓮華の台にて 〜青〜 後篇

泰範のことである。 弘仁三年十二月の胎蔵界灌頂ののち、高雄山寺に居ついて、かれこれ三年ほどが経っていた。 その間、泰範は空海について、東大寺の法会に参列したり、あるいは空海の求める山間の幽地を求めて、吉野から熊野までを踏破したりしていた。 「…

奇しき蓮華の台にて 〜青〜 中篇

「――また、借経を、との書状ではないか」 最澄からの書状を開き、空海はつよく眉根を寄せた。 「しかも、前にお貸しした大日経供養儀や悉曇釈なども、まだ書写が終わらぬと云うておられたに……」 書写が終わらぬ故に、返却を待って戴きたい、と云う書状を、も…

奇しき蓮華の台にて 〜青〜 前篇

※男×男の性的描写シーンが出てきます。閲覧の際は、自己責任でお願い致します。