2013-01-01から1年間の記事一覧

左手の聖母 6

ボローニャへ到着すると、ミケランジェロを待っていたのは、ユリウス二世からの、ブロンズ像制作の依頼だった。 等身大を超える青銅の法王像を、サン・ペトロニオ寺院の正面に据えつけよと云うのだが、正直に云って、ミケランジェロは気が重かった。ブロンズ…

左手の聖母 5

「カッシーナの戦い」の画稿が完成したのは、一五〇五年の一月末のことだった。 正直、ミケランジェロとしては、既に勝負の見えた話ではあったのだが、ともかくも、持てる技術をすべて使い、すべての霊感を注ぎこんで描き上げた画稿だった。 翌二月に画稿を…

左手の聖母 4

ミケランジェロが画題に選んだのは、フィレンツェ軍がピサ軍とぶつかった、いわゆる「カッシーナの戦い」だった。 百五十年ほど昔のこの戦いの図は、実は、フィレンツェ軍勝利の絵図ではない。 一三六七年七月二十九日、ピサと戦っていたフィレンツェ軍は、…

左手の聖母 3

使者の用件は、絵画の依頼だった。 フィレンツェ市庁舎――パラツィオ・ヴェッキオ内の五百人会議室に、フィレンツェの勝利を記念する壁画を描いてくれと云うのだ。 「――しかし、それは今、レオナルド・ダ・ヴィンチが請負っているのではなかったか?」 皆の知…

左手の聖母 2

報復はすぐにきた。それも、まったく思いもよらないかたちでもって。 その日、ミケランジェロは、作業を終えて、己の部屋に戻るや、行き倒れのように床で眠ってしまったのだ。 彼の常として、一度眠りにつけば、耳元で喇叭が吹かれようと目覚めないほどであ…

左手の聖母 1

「ミケランジェロが説明してくれるでしょう」 画家のその言葉を聞いた瞬間、かぁっと頭に血が上るのを感じた。 「あんたが説明すれば良いだろう、レオナルド!!」 思わず怒鳴りつけてしまったのは、今から思えば、多分、恥かしかったからだ。 この自分、売り…

ラファエロ展。

と云うわけで、やっと日付が近づきました、国立西洋美術館のラファエロ展観覧記です。 が、今回は、展覧会観覧記のくせに毒吐いてますので、ラファエロお好きな方は回避お願い致します…… † † † † † えーと、GWあけは先生の展覧会を見に行きたい(アトランテ…

エル・グレコ展。

っと云うわけで、めっさ過ぎてますが、エル・グレコ。 流石に記憶が薄い(図録も買わなかった)のでさらっと、さらっと。 えーと、チケットはだいぶ前に買ってたのですが、いろいろあってこの時期に。 平日ですが、やっぱり結構混んでた! 全体的な印象として…

神さまの左手 43

「出かけるぞ」 と云われて、サライは少々驚いた。 時刻がもう夜の九時になろうかと云う頃合いだったからだ。 「今から?」 「今からだ」 酒場に行くのかとも思ったが、それにしては少々よれた服を着ている。色褪せた上着、手には重たげな頭陀袋。酒場と云う…