2011-03-01から1ヶ月間の記事一覧

半色 八 (完結)

案の定、重盛の云うようは、父にあっさりと退けられたのだが。 池禅尼は、確実にその目的を達しようとしていた。 聞くところによれば、禅尼は、父の使いの者の前ではらはらと涙を流し、 「何と云うこと――もし大殿がご健在でありましたら、妾もかように軽う扱…

北辺の星辰 60

五稜郭の庁舎で歳三に割り当てられていたのは、かつては公事方の詰めていた部屋であった。白洲に近く、“陸海軍裁判所頭取”の職には相応しいと云うべきかも知れなかった。 いつもならば、その部屋には、陸軍奉行添役たる安富才助や相馬主計などが詰めているの…

神さまの左手 35

「……なぁ、俺が要るって、何があるのさ?」 大股で歩くレオナルドの横を小走りに行きながら、サライは当然の疑問を投げかけた。 レオナルドは、『最後の晩餐』のモデルを探していたはずで、実際、スケッチのための画帳も抱えている。 そうである以上、サライ…

高尾山散歩。

と云うわけで、高尾山。 や、この辺(多摩北部とか)って、子どものころに高尾山に遠足にいったりすると云うことだったのですが、私は親が転勤族だったり何だりで、そのころには東京近辺にはいなかったのでね…… 11:00に待ち合わせだったのですが、案の定(てへ)…

花がたみ 〜雪〜 四

「四郎叔父貴、己を得度させてくれそうな御坊をご存知ないか」 やってくるなり、五郎は両手をついて、そのように切り出してきた。切羽詰まったような、すがるような声音であった。 「そ、それはいくつか知ってはおるが――お前、座はどうするつもりだ、兄者の…

半色 七

「前播磨守殿の御嫡男が捕縛されましたぞ」 と、重盛に告げてきたのは、叔父・頼盛であった。 「は、それは……」 と云いながら、重盛の胸のうちには疑問がわき上がっていた。 何故、この叔父は、自分にかの小冠者の話をするのだろう? 「私の郎党の――平宗清と…