2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

左手の聖母 18

季節は、あっという間に過ぎていった。 秋のはじめ、サライを訪ねてきたものがあった。 「スイスへ行くんだ。……一緒に行かないか、サライ」 明るい青の瞳の、がっしりとした身体つきの男は、来るなりサライにそう切り出してきた。 「いつまでもここに閉じこ…

左手の聖母 17

暫く経ったある日のこと、ミケランジェロはふと、例のレオナルドの部屋の扉が開いていることに気がついた。 夜ではなく、真昼にだ。 珍しいこともあるものだと思って、戸口から覗きこむと、サライが重い鎧戸を開け放っているのが見えた。 「何をやってるんだ…