2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

北辺の星辰 45

歳三はその日、早めに仕事を切り上げると、そそくさと箱館奉行所を後にした。 この間の酒井孫八郎の訪問から五日が経ち、そろそろ強襲をかけられそうな気がしたからだ。酒井の熱心なことはよくわかったが、正直、事態の進展もみられないのに頻繁に訪ねてこら…

小噺・斎藤一の儀 其ノ三

「いやァ、参りましたぜ、土方さん」 「あ? どうした」 「いえね、今ちょっと一ちゃんが茶目っ気出しまして」 「……おう(厭な予感)」 「まァ、いつもみてェに厠から出てきた人の後ろに立ったわけですよ」 「……あァ(ますます厭な予感)」 「でねェ、まァあんた…

神さまの左手 21

彼女がやってきたのは、夏の盛りの七月十六日のことだった。 その日、レオナルドは、例の馬の彫像のために、コルテ・ヴェッキア宮殿の工房に出向いていたのだが、来訪者があると云う使いのものの知らせで、慌ててスフォルツェコとドゥオモの間にある、自身の…

北辺の星辰 44

酒井孫八郎は、本当に諦めなかった。 年が明けて、まだ松の内の一月六日には、もう歳三を訪ねて来て、またくどくどと松平定敬の処遇について云ってきたのだ。 しかも、聞けば日中には、五稜郭へ榎本を訪ねたのだと云う。 その時は、歳三は箱館奉行所へ出向い…

小噺・森彌一左衛門の儀

「ねェ、土方さん、ちょっと訊きてェんですけども」 「あ?」 「桑名の森さんっているでしょう、あの、こう細面ですぅっとした感じの、ちょっと阿部さんに似た雰囲気の」 「あァ? それァもしや、森彌一左衛門さんのことか?」 「そうそう。箱館で、新撰組の…