小噺・剣術談義

「そう云やァ、土方さん」
「何でェ」
「思い出したんですけど、何で俺、ずっとあんたに勝てなかったんでしょうねェ。俺ァ免許皆伝で、あんたァ目録だったってェのに」
「我流でも、俺の方が強ェってェことだろ」
「や、あんたの我流が並みじゃねェってのは知ってますけどね。でも、おかしいんですって。だってあんた、近藤先生にゃ、いっつも負けてたじゃあねェですかい」
「……まァなァ」
「で、俺ァその近藤先生にも勝つんですぜ? 何たって、免許皆伝ですぜ? それで何で、俺があんたに勝てねェんですよ?」
「単に、場数の問題じゃあねェのか。俺ァ喧嘩屋だからなァ」
「場数なら、俺だって結構踏んでまさァ。だからおかしいって云ってるんじゃねぇですかい」
「そんなのァ、俺が知るかよ。おめェが油断してたんじゃねェのか」
「……まァ、あんた、あり得ねェとこから手が出てきますからねェ。いつだったか、誰ぞとやりあってる時、あんた、右手で斬りつけたかと思ったら、左の拳で相手の鼻ァ折りやがったでしょう」
「……そうだったか」
「そうでしたよ。よくもまぁ、あんな器用なことができるもんだって、俺ァちょっと感心しちまいましたぜ。おまけに、内輪たァ云え剣の試合だってェのに、噛みついてくるわ、目潰しはしてくるわ、まったく大したもんですよねェ、本当に」
「……そのもの云いにゃ、何か含みを感じるんだがな」
「そらァ、あんたの気のせいってもんでしょうさァ(爽笑)。――そう云や、伊東先生と試合った時にも、あんた、俺の技ァ使って、何やらやってましたよねェ」
「あァ、踏みこんだ時に奴の足払った、あれのことか」
「そうですよ。あれで、伊東先生の剣が逸れたでしょう。先生、負けたってわかった後、あんたのあれがわざとかどうか、判じかねてる風でしたけど――あれァ間違いなくわざとだったでしょう、俺にゃはっきりとわかりましたぜ」
「まァ、勝つためにゃ、何でもやるのが喧嘩だからなァ」
「元は俺がやった技なんですけどね。――だけど、いっぺんしか見たことのないもんを、よくもあの土壇場で繰り出せたもんですね。それだけァいつも感心してまさァ」
「……褒められてんのかどうか、微妙なんだがよ」
「おや、おわかりで」
「……この野郎」
「まァまァ、あんたが強いってのァ、皆の認めるところですって。――それにしても、何で俺ァ、あんたに勝てねぇんですかねェ」
「……知るかってェの」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。
剣術談義、って云うよりは、喧嘩談義だァね……


天然理心流は、実戦剣術なので、割と何をやってもよかったんだよー、とは、沖田番の言。噛みついたり殴ったり目潰ししたり、は普通の試合ではしないそうだけど、“汚い手”ではないんだそうだ――今なら立派に反則です(笑)。(←実際に試合では反則だけど、斬り合いの最中はそうでもないと云うことらしい)
総司はまぁ免許皆伝ですが、鬼はホントに我流の極みだったそうで――しかし、我流でそんだけ強いのも、それはそれで凄いんだそうだ……そうですか。
まぁ、野犬集団・新撰組、副長も強くないと勤まんないよね、当然。
しかし、目潰しとか、本当に(史実でも)してたんだろうか……それだけは気になります。膝押さえつけてげしげしやられたんだよ、という恨み節が……おやぁ?


そうそう、やっとこ子母澤寛新撰組三部作を買いました――古本屋で。
おお、本当に近藤さん、腹を突き出し気味に剣を構えたんだー。とか、そういう電波情報で聞いてた話を読んで笑ったり。
ところで、どこかに、桂さんを取り逃がしたニートが、マジギレした鬼に肋にひびを入れられた挙句、十日ばかり謹慎させられた、っていう記録とか、残ってませんかのぅ……


次は多分、鉄ちゃんの話の続きで。
でも、勝さんも書きたいんだよねぇ――勝さん、『氷川清話』読んだら、語り口調がいかにも! で、ちょっと笑いました。勝さん……