小噺・斉藤一の儀

「そう云や、土方さん」
「何でェ」
「こないだ、一ちゃんに会いましたよ。源さんとこで、偶然なんですけど」
「あァ、懐かしいなァ。あいつ、元気だったか」
「相変わらずでしたよ、特に、あの顎が。思わず掴んだら、鼻ァ潰し返されましたさァ」
「……おめェらも、相変わらずみてェだな」
「本当に、相変わらず酷ェですよねェ、一ちゃんてば。俺のこの可愛い鼻ァ潰そうだなんて」
「……おめェは、本当に相変わらずだぜ」
「えェ、何ですよ、酷ェなァ。――それはともかく、一ちゃんといえば、士道不覚悟ごっこですよね!」
「……何だそれァ」
「だから、あれですよ、物陰に潜んどいて、通りかかったところを斬りかかってくんでさァ。打たれたら、『士道不覚悟!』って云う、あれですよ、あれ」
「もしかして、俺とおめェが一緒に出先から帰ってきたときに、斉藤の奴が真剣で打ちかかってきやがった、あれのことか」
「真剣って――峰打ちだったじゃねェですかい」
「切先ァ潰してねぇだろうが!」
「だって竹刀じゃ意味がねェでしょう」
「意味があるとかねェとか云う問題なのか、それは?」
「そうですよ。不意打ちされたときのための鍛錬なんですからねェ。竹刀なんぞじゃあ、危なくねェじゃねぇですかい」
「……総司、おめェらの“鍛錬”とやらをやらかした場所ァ、他所の人間も出入りする場所なんだぜ?」
「そうですよ」
「もしも、おめェらが、俺ん時みてェに誰かを巻きこんで、うっかり怪我でもさせようもんなら、新撰組そのものの問題になっちまうってェんだよ!!」
「えェ、それをしないようにするための、士道不覚悟ごっこなんじゃねェですかい」
「抜き身振り回してたおめェが云うか!」
「何ですよ、心が狭ェなァ」
「おめェら、それで源さんにも怒られてたじゃねェか」
「あんたが云いつけたからじゃねェですかい」
「あたり前だ!(怒)」
「本当に、心が狭ェなァ……あァ、そう云や思い出したんですけど」
「(また話逸らすつもりだな、この野郎)……関係ねェ話なら聞かねぇぞ」
「関係ありますって。――あのですね、不動堂の屯所で、密談に向いたとこがあったじゃねェですかい、厨のそばあたりだったと思うんですけど」
「……もしかして、あの、廊下の端に、何でか戸棚があって、その向こうが小部屋みてェになってたとこか」
「そうそう、まわり全部板戸の、あそこですよ」
「……大した密談にゃ使えねェだろう、あそこァまわりに筒抜けじゃねぇか」
「まァねェ、せいぜい、飲みに出かける算段とか、小金の貸し借りの相談とかにしか使えませんねェ。――あそこの戸棚の引戸んとこに、そう云や一ちゃんが潜りこもうとしてたことがあったなァ、って」
「……あの戸棚に、斉藤がか」
「そうですよ」
「あの戸棚の引戸んとこってなァ、高さが一尺半くれェじゃなかったか?」
「もうちょっとあったでしょう、二尺足らずってとこじゃねェですかい?」
「どっちでも同じだろうが――そこに、あの斉藤が入ろうとしてたのかよ?」
「そうですよ。普通に考えて無理ですよねェ、一ちゃん、六尺くらいありましたからねェ」
「……それ以前に、何でそんなとこに入らなきゃならねェってんだ、あいつァ」
「何か、そこでしてる密談、て云うか内緒話が聞きたかったらしいんですけどね。――で、じたばたしてるとこに通りかかって、声かけたら、一ちゃん、俺をくるりと振り返って、今度は俺をそこに詰めようとしやがるんで」
「……何がしてェんだ、あいつァ」
「さァ。一ちゃんですからねェ。……お蔭でその後、戸棚のたてつけが悪くなったって聞きましたさァ」
「……あれァ、おめェと斉藤の仕業だったのかよ」
「俺ァ巻きこまれただけですって。――まァそれにしても、一ちゃんってのァ、面白ェ奴でしたよねェ、本当に」
「俺ァ、あいつのこたァ、結局よくわからなかったぜ」
「えー、面白ぇ奴ですって。何か、死ぬ時、床の上で結跏趺坐したとか、息子にも士道不覚悟ごっこしかけたとか」
「息子にか!」
「えェ、子供が学校から帰ってきたとこを待ち伏せして、物陰から打ちかかってったそうですぜ。で、息子が避けられなかったんで、『士道不覚悟!』って云ったんだとか何とか」
「……それァ、息子が気の毒だぜ……」
「えェ、そうですかァ? どんな時も油断するなってぇ親心だと思いますけどねェ」
「いきなり打ちかかられんのを、“親心”ってェ思える子供がいるもんかよ!」
「そんなことありませんよ、わかりますって。あんたァ、心が狭ェから、そんな風に思うんですぜ?」
「そう云う考え方ができんのァ、おめェだけだってェの!」
「えェえ、わっかんねェ人ですねェ、土方さんって」
「――わかんねェのァ、おめェの脳天ん中の方だぜ……(溜息)」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。
一ちゃんの話。


えーと、これ、その一ってしていいですか。
つーか、一ちゃん、ネタ多くって、今回一度じゃ入りきらなかったので!(爆)
士道不覚悟ごっこと戸棚に総司を詰める話、くらいしか入れられなかったなァ――あァ、顎の話(笑)は入れたか。
ちなみに、自分的ベスト・オブ・斉藤一は、『風雲新撰組』のあのヴィジュアルです。そっくりだと思うんだ、あれ! あの顎と無精髭、自分的スタイリッシュなあの格好! なおかつぼそぼそ喋るカンジが! 似てる! そっくり!
今回のを含め、うちの一ちゃんは、あのヴィジュアルでお願い致します(笑)。


そう云えば、またやってましたね、「日本人の好きな偉人 英雄編」。――“英雄”なのに、先生が38位にいるこの不思議。
殿(伊達の)は42位でかっちゃんが41位(負けた……)、総司は30位で鬼が17位。よしよし、今回は鬼の方が上だ。
高杉さんは58位くらいで、龍馬が2位とかなのかな? 西郷どんもいたっけ? 幕末関連は、意外と少ない、つーか、あたり前かもだけど、勝さんいないのね……ちっ。桂さんも見かけなかったなぁ、そうか……