小噺・斉藤一の儀 その弐

「で、土方さん、こないだの続きなんですけどね」
「どれの続きだよ」
「ほら、不動堂の屯所で、一ちゃんに戸棚に詰められそうになった話でさァ」
「あァ、あれか」
「えェ、あれですけど、あれ、続きがあってですね、俺と一ちゃんがもみ合ってるとこに、平ちゃんが通りかかったんですけど」
「藤堂か」
「えェ。平ちゃん酷いんですぜ、俺と一ちゃん見て、ぼそっと『……馬鹿ふたり』とか云うんでさァ」
「本当のことじゃねェか。――そう云や、あいつァ小兵だったなァ……まさかとァ思うが」
「そのまさかでさァ。一ちゃん、平ちゃんを詰めようって、くるっと振り返って追っかけたんですけど」
「逃げられたか(にやにや)」
「そうなんですよ。『つき合ってられねェ』とか云っちゃって……俺があんなに好き好き云ってたのに、平ちゃん酷ェんですよ」
「そりゃおめェ、こないだ源さんにも云われてたじゃねぇか、おめェは構いすぎなんだよ」
「何でですよ! 俺、本当に平ちゃんのこと弟みてェに思ってたのに!」
「……それが厭だったんだろうさ、藤堂ァな」
「酷ェや、平ちゃん……(しくしく)」
「まぁ、そういう間柄ってェのもあるさ。いいじゃねェか、斉藤とは仲良くしてたんだろ」
「まァ、そうなんですけど。でも、一ちゃんは、弟って云うには可愛くねぇんですよ」
「……あァ、まァ、なァ……可愛かァねェなァ、老けてるしなァ」
「落ち着いてるって云うんですよ、まったく、酷ェ人だなァ。――そう云えば、よく、一ちゃんと永倉さんと飲みに行きましたねェ」
「そう云やァそうらしいな。それで思い出したが、いつだったか、土佐藩の誰ぞと斬り合いになったとか云ってなかったか」
「あァ、そうそう、あん時は、みんな酔っ払ってたんで、こう、喧嘩んなって、歯止めがきかなくってねェ。そん時には、相手が土佐藩のひとだとは知りませんでしたけど」
「そん時斬った片割れたァ、後々紀州の三浦先生の護衛の時にやりあったとか聞いたが」
「あァ、そんなこと云ってましたねェ。俺ァあん時、もう具合が悪かったんで知りませんが。――しかしあんた、一ちゃんとそんな話したんですかい」
「……まァ、一応な」
「意外ですねェ。あんたァ、一ちゃんが懐いてっても、逃げ出してたじゃねェですかい」
「……斉藤が、いつ俺に懐いたって?」
「あんたがいる時に、よく刀の手入れしてたじゃねェですかい」
「(あれァ、懐かれてたのかよ)……確かにしてたなァ」
「あんたがいっつも逃げ出すもんで、一ちゃん、刀ァ見ながら『この刀では駄目か』とか云ってましたぜ」
「……何だそれァ」
「もっといい刀じゃなきゃ駄目かってことでさァ。いじましい努力してたんですから、ちゃんと刀ァ見てあげなきゃ駄目でしょう」
「だが、あいつァ、いきなり斬りかかってきやがるじゃねぇかよ」
「え〜? あんたにァ、そんなことしてねェじゃねェですかい」
「おめェにゃァしてた(頑)」
「……あァ、そう云やァそうですっけね。――にしても、逃げ出すこたァねェでしょう。一ちゃんが可哀想でさァ。それとも、あんたの心の臓ァ、兎みてェなんで?」
「……五月蠅ェよ」
「ははははは! 可愛いですねェ、土方さんて」
「五月蠅ェってんだよ!」
「ははははは! ――しかしまァ、そこらへんが、あんたが箱館まで、指揮官としてはうまくやれた理由なんじゃねぇですかねェ」
「兎の心臓がかよ(憮然)」
「だから、逆に戦い慣れしてねェ兵のことも考えられたんでしょうさァ。その点、一ちゃんは、三番隊の連中しか率いたことがなかったから、そういう連中のこたァ頭に入れてなかったんでしょう。それで、母成峠で負けちまったんでしょうさァ」
「……まァ、そういう部分はあったのかも知れねェなァ」
「あんたァ、そういうところはいろいろ見てますからねェ。ただ、攻めが苦手なのがねェ――守るのァ巧ェんですけどねェ、二股口とかねェ」
「見てきたように云うじゃねェか。大体俺ァ、褒められてんだか貶されてんだか、わからねェんだがな?」
「褒めてるんですよ、多分」
「多分、ってなァ何だ、多分ってなァ!」
「おや、おわかりにならねェんで?(にこ)」
「!!!!! ……馬鹿野郎ー!(泣きながら走り去る)」
「あれ、土方さんってば。――まったくもう、本当に、可愛いんだからなァ、土方さんってば(にこ)」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。一ちゃんの話の続き。


今回は、まぁそんなに面白いネタはないですよ――平ちゃんの話くらい? 平ちゃんに総司が振られまくる(not腐女子向け)話は、また別個に書いてみたいものですが……
鬼はチキン。ああ、兎の心臓だからな! チキンなんだよ、悪いか! ……と、意味もなく逆切れしてみる。
ただ、思うんですが、剣士とか挌闘家はアレですが、軍隊の指揮官とかは、いっそチキンの方がいいんだと思うんですけどね。チキンなだけじゃ困るけど(笑)。


ちょっと職場でいろいろあって、暫プチ鬱でした――もう、鬱の底は打ちましたが(早)。だから、ちょっと更新滞ってたのですよ……
疲れてるんだよ――あァ、上司は勝さんの方が全然いいよ。死ぬほど使い倒される(絶対そうだ!)けど、こういうストレスは溜まらないもんな。榎本さんや大鳥さんだと、比較的自由に動けそうだし、それはそれで。
今の状況って、春日さんの下につけられちゃった鬼、みたいなカンジ……キツイ。
ううぅ、源さんの腰に纏わりつきたい――そいでごねごねするんだ。源さんはきっと、怒りはしないよ。「まったく、しょうもねぇ野郎だな」とは云われると思うけど(←きっと私の性別、デフォルトで男だと思うんだろうさ……)。源さーん。うだうだ。
ああ、したいしたい、源さんに纏わりついてうだうだしたいー。


さて、次は、鉄ちゃんの話の続きかなー。