試衛館と云う“家”。

うーんと、最近になって気がついたんですけども――
もしかして、かっちゃんは、幕臣になろうが何だろうが、“新撰組”≒“試衛館”とか思ってたのか?
だから、結構やりたい放題(隊の金で女囲ったりとか、あんな時分にかっしー引き入れたりとか)できたんだろうか。
そうなの?


だって、ねェ、云いたかァねェんですけども、普通はさ、200人からの大所帯になって、そのトップに立つって云ったら――目線とか気構えとか、変わらないか?
それが、かっちゃんって、結局最期の最期まで、“試衛館の近藤勇”――芋道場の主、武士に憧れる農民の子倅、のまんまだったのかも知れない。
だから、殿内さんや芹鴨斬って、自分がただひとりの局長になった時なんかに天狗になっちゃったんだろうし、ぱっつぁんとかが反抗したときに、迂闊に「家来になるなら……」とか云っちゃえたんだろうなァ、それって、やっぱコンプレックスだったのかなァ。ぱっつぁんとか原田とかって、何だかんだ云っても武家の出だもんなァ。


沖田番に云わせると、鬼が早々に“組織の管理者”に移行できたってのは、実は鬼が、試衛館を“家”と認識していなかったから、だと云うんですけども――うん、否定はできない。鬼にとっては、試衛館は“家”じゃないもん。どっちかって云うと“ともだちの家”であって、決して自分の家じゃない。食客まがいだったって、薬売りの行商とかしてたわけだし、“帰る”と云えば、やっぱり日野の家か、彦五郎さんの家ってことになるもんね。
つーか厳密に云うなら、鬼の“家”って、実は存在しなかったのかも知れない。実家は兄貴のものだったし、彦五郎さんとこだって“自分の家”じゃない。
鬼にとっての“家族”ってのは、多分、京に上ってからは源さん(=父親とか、兄貴とか)や総司(=弟)みたいな感じだった(かっちゃんは違う――あくまでもともだち)んだと思うんですが、“試衛館”は、そこに“家族”的要素を含んでいながら、鬼にとっては遂に“家”たり得なかったんじゃないかと思います。まァ、そう云いつつも、鬼も結局は甘ったれなんだけどさ!
ともあれ、鬼の居心地のいいのは、“家族”じゃなくて“組織”だったって云う、この段階で、後々の分裂の芽なんかとっくに生えてますよね!


対するかっちゃんは、これはもう、“新撰組≒試衛館=自分の家”、しかも自分が家長、だったんだろうなァ。
家族の中では、多少の甘えが赦されるように、かっちゃんも、自分はその“家”の中ではいろいろなものが赦されて当然、と思ってたんじゃないのかな――かっしーなんか引き入れたのも、昔みんなを食わせてやってたのと同じ感覚でしかなかったんじゃないんだろうか。単なる食客を拾った、みたいな感じだったのかも。佐幕とか倒幕とか、ちっとも考えてなくて(だって、家族なら、意見が違ってても一緒にやってくからね)、山南さんの件だって、かっちゃんの意見に正面切って反対されるまでは、一緒にやってくつもりだったんだと思う――反対されて、息子に反抗されたお父さんみたいになっちゃった(山南さんの方が年上なはずですが)んだろうなァと。
新撰組は家族じゃなく、かっちゃんもただの道場主ではなくなってたのに、それには遂に気づかなかったのかもね。
で、それが結局、甲陽鎮撫隊の後、流山で、みんなと袂を分かつ原因になったんじゃないのかな。推測ですけれども。


新撰組”ってのは、沖田番に云わせると、かっちゃんと鬼、どちらが欠けても成り立たないんで、だから流山以降の新撰組は“新撰組”じゃないんだそうですが、うん、そうかも知れない。
新撰組――あの集団にみんなが惹きつけられるのは、旧い“家”と近代的“組織”との混交、有機と無機の複合体、であるからこそのアンバランスさ、それ故だったのかも。
だから、京都時代の“新撰組”に惹かれる人が多いんだろうな――“組織”でありながら、どこか男子校の寮生活の延長のような、混沌とした、曖昧な論理で動いているように見える集団だからこそ。
でもって、だからこそ“箱館新撰組”ってのは、あんまり人気が無いんだろう、あれは“近代的組織=軍隊”だもんな。鬼と云う将を戴く、まったく家族的でない集団だから。


† † † † †


……という、散漫なことを考えてたんですよねェ。
考えて、何となくかっちゃんの気持ちはわかった(あくまでも何となくね!)のですが、うん、それでかっちゃんのことを好きになったりはしないんだ――薄情だもん。
でもまァ、これで例の『闇/の/検/証』とやらの、かっちゃんの「何でこんなことになっちゃったんだろう……」ってのは腑に落ちました。
つーか、切り換えろやアタマ! と云う気分になったのは事実ですが(←沖田番がヤな顔しそう……奴、かっちゃん大好きだもんなァ)。
まァ、鬼が薄情なだけと云われればそれまでなんですが。ええ。


まァいいや、益体も無いこと考えるよりも、話の続きだ。
……次は、阿呆話(時期外れ)ですよ〜。