あの子と同居バトン

と云うわけで、バトンです。
何でバトンでこのカテゴリよと思われる方はあるかと思いますが、仕方がないんだ、そういう形式で答えちゃったから。
折角だからと、沖田番の「指定キャラ→土方歳三」も一緒に掲載。
檄重(2つでtxt24kbくらい)なので、畳んでます。読んでやろうと云う方は、下からどうぞ。


あの子と同居バトン
指定キャラ→『沖田総司


 うちに帰り着くと、父親が、微妙な表情で迎えてくれた。
「……なに?」
 訊くと、
「お前に客だ」
 と云う。
 ――客?
 こんな時間(午後八時ごろ)に?
 首を傾げながら居間に入ると、これまた微妙な表情の母と、奥のソファに坐った人物が、こちらを見た。
 綺麗に剃り上げられた月代と、後ろに垂れた髷、浅黒い肌の四角い顔は、ピーターのそれを横に平たく広げたよう。小紋の小袖に縞の袴、腰に差した大小――
 ――って!
 銃刀法違反だろう! と叫びかけた目の前で。
「あ、お帰りなせェ」
 件の人物――間違えようもない、新撰組一番隊組長・沖田総司は、にっこりと笑って手を振ってきた。


■朝はあなたと「沖田総司」、どっちが先に起きてる?


 裂帛の気合いで目が醒めた。
 次に、どたどたと階段を駆け上がってくる足音が。
「おい!」
 と、父の声。
「お前のあれ、近所迷惑だ! 止めるよう云ってこい!」
 あれじゃなくって、沖田総司だよ、と、眠い頭のままで呟く。
 大体、父は、友人の名前を覚えない。沖田番も“例の”だし、本物の沖田も“あれ”呼ばわりだ。
 とは云え、父も、あれが名高い“沖田総司”だとは認めたくないのだろう。
 当然だ、すこしでも新撰組に興味がある人間なら、かの「天才剣士」沖田総司には夢を持っているはずだ。
 その沖田が、あんなのさのさした、馬鹿でかい背丈の、冗談ばかり云って真剣みの見られない男だなど――がっかりさせられるにもほどがある。
 ――あァ、これが勝さんだったらなァ……
 総司が来てから、何度目かになる呟きをこぼし、溜息をつく。
 すくなくとも勝さんなら、朝っぱらからのこういう迷惑はなさそうだ――朝寝坊だろうから。
 ともかくも、ご近所迷惑は止めさせなければ。
 半分眠ったままで、のっそりと起き上がり、階段を下りて庭へ出る。
「……あのさァ」
「あ、おはようございます」
 どこから探し出したものか、弟の木刀――天然理心流のそれよりは、当然のことながら、短いし細い――片手ににぱっと笑って振り返る、その表情は“さわやか”と云ってもいいものだったが。
「この辺、住宅事情がアレだから、朝っぱらから鍛錬されても困るんだけど」
 多摩川の河原まで響いたという気合いは、「天才剣士」に相応しいかも知れないが、静かな住宅地では迷惑なだけだ――確かに、このすぐ下にも川はあるが、だからと云って、朝っぱらから昔のような鍛錬をしていい、と云うこともない。
「あァ、そいつァすみません。どうも、朝イチにこう、肚の底から声出さねェと、起きたって気がしねェもんで」
「……あたしも、まだ起きる時間じゃあねェのよ」
 何と云っても、まだ6時前だ――普段の起床までは、まだ2時間近くあると云うのに。
 そう云うと、総司は大口を開けて、ははっと笑った。
「それァお寝坊ですねェ。休みの日の土方さんみてェだ」
「やかましいわ」
 ぽこりとひとつ拳をくれて。
 にやにや笑う総司を残し、今すこしの惰眠を貪るために、のそのそと部屋へ戻る。
 携帯のアラームに跳ね起きるのは、まだもうすこし先のことだった。


■朝食どっちが作る? 何がいい?


身支度を整え、階下へ降りてゆくと、
「おはようございます。本当にお寝坊で」
 にやにやと総司が云ってきた。
 その隣りで、母は、微妙な表情で唇を震わせている。どうせ、自分ではなくこの(娘の初めての春? の相手である)男が云ったことに、笑いをこらえ切れずにいるのだろう。
「……ふん」
 鼻を鳴らして、カップを温めている湯を捨て、一緒にトースターからキツネ色に焼けたパンを取り出す。
 テーブルの上には、ハムとレタス、コーヒーとヨーグルトのかかった果物――いつものメニューだ。
「……それ、沖田さんが作ったのよ」
 母が云うのに、思わずコーヒーを吹きそうになる。
 冗談は止めてほしい、時間もないのに。
 第一、幕末から来た人間が、コーヒーを淹れられるわけがない――ヨーグルトだって、あの当時にはなかったろう。
 微妙な表情で総司を見るが、こちらはにやにやと笑うばかり。
 ――畜生。
 女にあるまじき科白を胸のうちで吐き捨て、がぶりとパンに齧りつく。
 大体、これは料理と云うものではない。ただ単に、切って、焼いて、盛り付けただけだ。
 ――それに、いつもの朝ごはんと変わんないじゃん。
 どうせ、物珍しさに、総司が「やらせて下せェ」と母にせがんだのに決まっている。
 そんなことを考えながら、黙々と噛みしめたパンを、コーヒーで胃の腑に流しこんだ。


■そろそろ学校(仕事)の時間です。「沖田総司」はどうすると思う?


 と思っているうちに、TVでは、朝の連ドラがはじまった。そろそろ出かける時間だ。
「もう15分よ。急がないと」
 母が云うのに、総司もにやにやとしながら(うぜェ!)頷いてくる。
「そうですぜ。土方さんじゃああるまいし、時刻に遅れるのァよくありませんぜ」
「やかましいわ!」
 総司を怒鳴りつけると、
「ちょっと、ほら、急がないと駄目でしょ!」
 母からそんな言葉が飛んできた。
 ――畜生……
 まったく、総司と一緒に朝食だなんて、碌なことがない。
 相手はやたらとまぜっかえしてくるので、話が遅々として進まないのだ。
 こういう時は、無視するに限る。
 何やら話しかけてくる総司を完無視し、
「ごちそうさま」
 と皿を流しに持っていって、そのまま玄関へ。
「お仕事なんで?」
 のさのさと後をついてくる総司に、
「そう! チャリだから、駅まで4kmあるから! ついてこないでよ!」
 と云い捨てて、コートを羽織り、自転車に飛び乗る。
 云っておかないと、このままついてきそうで――しかも、余裕で追いかけてこられそうで、それはそれで怖い。と云うか、ついてこられても。
「いってらっしゃーい」
 後ろから、総司の云うのが聞こえたが――
 ――無視だ、無視、帰ってくるまで、あれのことは考えない!
 そう心に誓い、ペダルを思いっきり踏み込んだ。


■学校(仕事)帰りに「沖田総司」とばったり! 相手の反応は?


「……って云うか、何でいるの」
 仕事が終わっての帰り道。
 呆然とそう云うと、相手はへらりと笑って、頭を掻いた。
「やァ、こちらにお勤めだって聞いたんで、お父上に“じてんしゃ”とやらをお借りして。青梅街道をまっすぐって聞きましたけど、この“じてんしゃ”ってェのァ便利ですねェ。昔なら、丸一日かかったとこを、一時ぐらいで来れるんですからねェ」
 と云う男が佇んでいるのは、職場の裏手の靖国通りの路上だ。自転車のハンドルに手をかけているところを見ると、言葉どおり、家からここまで、自転車で駆け抜けてきたのか――袴姿で、腰に大小を差して。
「や、そういうこと訊いてるんじゃないんだけど」
 そもそも、どうしてここに来たのかと訊いたのだ。やって来た経路や、交通手段の話ではない。
 まァ、総司の格好については、きっと時代劇のロケだとでも思ったのだろう。当然だ、今の世の中、本当の刀を差している“侍”など、TVの中ででもないと、お目にかかれるわけはないのだし。
「それァともかく、いやァ、内藤新宿も、すっかり様変わりしたんですねェ。昔からきらびやかなところだとは思ってましたけど、まさかこんなんなってようとはねェ」
 総司は、云いながら、歌舞伎町の明かりをきょろきょろと見る。
 ――そりゃあ、江戸の昔に較べりゃあそうでしょうとも。
 大体、あの当時は、ネオンサインなんぞありはしなかったのだし。
「こういうとこって、アレだったんでしょ、女買いに来たりとかしたんじゃないの」
「それァ、土方さんとかでしょう。俺ァ至って真面目なもんでしたぜ」
 などと云うが――どうせ、色気より食い気のこの男のことだ、待っている間、自分は団子をぱくついていたに決まっている。
 しかしまァ、確かにこの男は、遠い時空を越えて、この場所にいるのだ。すこしばかり感傷に浸るのも、無理のないことか。
「……追分団子ならまだあるけど、食べに行っとく?」
 ちょっと仏心を出したのが間違いの元だった。
「いいんですかい?」
 総司の眼が、きらーんと輝いた。
「……まァ、ちょこっとなら」
 追分団子の茶房は、飲み物を頼まなくてもいいし、下手な喫茶店よりは、懐も痛まない。
 ――これくらいなら、昔を偲ばせてやってもいいか。
 ちょっと甘いことを考えてしまったけれど、すぐに後悔させられた。
 そう云えば、総司はかなりの甘いもの好きなのだった。
「――あ、おねーさーん、次、この二色盛り合わせ下せェよ」
 明るい声で云いながら、もりもりと団子を頬張る総司の姿に。
 ――あたしの財布、大丈夫かよ……
 ここってカードで払えたかなと、皿の数だけ心配が積もっていくのだった。


■家に帰ったけど、あなたはやることがあります。そんな中「沖田総司」はどうすると思う?


「って云うか、何で誰もいねェの!」
 帰り着いた家には、誰もいなかった。
 明かりをつけると、食卓の上に、メモが1枚。
“野球の券を伯父さんから貰ったので、二人で東京ドームまで行ってきます。沖田さんと晩御飯食べておいてね。戸締りをちゃんとしておいて下さい”
「って! 聞いてねェ!!」
 普段、その日の朝に云わないと、前々から云っていた飲み会すらも“聞いてない”と云うくせに――自分たちは、その日の夜に、メモ書きだけか。
「あり得ねェ……」
 しかも、何も食事の用意はなし。
 ――マジですか。
 今から、一から作れと。
「……さァて」
 とは云え、もちろん残りものがまったくないわけではないはずだ。昨日の蓮根のきんぴらや、蕪の酢の物、残りご飯もあったはず。
「何か手伝いますかい?」
 総司がひょっこり顔を覗かせるのへ、
「こっちはいいから、風呂やってきて」
 と云うと、
「はいはい」
 と、ふたつ返事で風呂場へ向かっていった。
 さて、それではこのうちに、冷蔵庫の中の点検をしてみるとするか。


■さぁ、夕食にしよう! どっちが作る?


 冷蔵庫の中には、一昨日のカレーがすこしと、茹でたブロッコリーとカリフラワーがあった。
 マカロニは切れていなかったはずだから、これでカレーグラタンを作ろう。
 マカロニを茹でて、電子レンジでカレーを温め、耐熱の器にマカロニと野菜、カレーを入れる。その上から、蕩けるチーズ(幸いにも、すこしばかり残っていた)と粉チーズをかけて、温めたオーブンの中へ。
 蓮根のきんぴらを小鍋で温め、蕪の酢の物は小鉢に盛って、上に七味を少々。
 箸を打って、コップを並べていると、やがてオーブンの中からカレーのにおいが漂ってきた。
 総司は、風呂の準備を終わらせた後は、台所をうろうろとしている。よほど腹が減ったものか、マカロニ(もちろん、味などない)やブロッコリーを物珍しげに見て、それからぽいと口に抛りこみ、微妙な表情を見せている。
 ――そりゃあそうだろうさ。
 味付け前のマカロニなど、食べて美味しいものでもない。
 そうこうしているうちに、グラタンもぐつぐついい出した。
 釜敷をテーブルの上に敷き、その上にこんがりと焼けたグラタンの皿を置く。きんぴらは赤絵の鉢に盛って、ビールも出した。
 さて、夕食だ。
 ビールの缶を開け、総司のコップにも注いでやる。
 総司は、泡立つ金色の液体を、不思議そうに見やり、恐る恐るぺろりと舐めてみて――
「……苦ェ」
 と云うなり、コップを置いてしまった。
「それ、酒だけど?」
 と云ってやるが、コップを取ろうともせず、グラタンに手をつけはじめた――こっちの方は、気に入ったらしい、もぐもぐと頬張っている。
「……普通の酒もあるけど」
 仕方なく云うと、総司の眼が、またもきらーんと輝いた。
 しまった、そう云えば、この男はうわばみだと聞いたことがあった――酒は父親のものなのだが、よもや一晩で一升空けたりはしないだろうな?
 早々に、日本酒の存在を明かしたことを後悔するが、既に遅し。
 据えられた一升瓶の中身がどんどん目減りしていくのを眺めながら、さて、父親に何と申し開きをしようかと、そればかりが頭の中で渦巻いていたのだった。


■夕食も終わり、テレビに夢中なあなた。「沖田総司」の反応は?


「ねェ、暇なんすけど、俺」
 後ろから、がっしりとした腕が絡みついてくる。
 残念ながら、身の危険は感じない――むしろ、ただ単に邪魔だ。
「今、これ見てるから」
 張り付いてくる男を押しやりつつ、目はTVに釘付けだ。
 何しろ、ずっともう一度見たいと思っていた、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵に関するドキュメンタリーの再放送なのだ。もちろん、ビデオはばっちりセットしてあるが、やはり、リアルタイムで見るのは“お約束”だろう。
「でも、“びでお”とやらに録ってるんでしょう? それァ、後から見直せるってェ代物なんでしょう? それなら、ちっとァ俺に構ってくれたっていいじゃねェですかい」
「画質が違うんじゃ!」
 と云ったところで、総司に意味が通じるわけもなく。
「構いなせェよ、ねェ」
 云いながら、がたがたと揺さぶってくる。
 あんまり煩いので、嫌がるとわかっている腋の下をくすぐってやった。
「ぎゃっ!」
「ほーら、構ってやったぞ」
 得意げに云ってやると、
「あんたってェ人ァ……」
 と、恨めしげな目になったと思うや、
「そっちがその気なら!」
 と、くすぐり返された。
「うぁは、うはははは! 止せ、止めろってェの!」
 後は、どったんばったんのつかみ合い。
 その間に、TV画面が別の番組に変わってしまったことは――今思っても痛恨の一事だ。


■なんとお風呂で「沖田総司」と遭遇! どうする?


 がらりと脱衣所の扉が開いて。
「ふ、ふふ〜ん♪」
 でたらめな鼻歌を歌いながら入ってきたのは、沖田総司
 そのまま、ごそごそと着物を脱いで、風呂場に入ってこようとする――って。
「待てや、この阿呆!!」
 思わず怒鳴ったのは、こちらが素っ裸で湯船に浸かっていたからだ。
 ――灯りが点いてるんだし、誰か入ってるってわかれやコラァ!!
 これを、超マイペース、で済ませられるわけがない。
「お、あれ、お入りで?」
 総司は、のほほんとした顔で云うが。
 ――死ね。
 と吐き捨てずにいるのは、慈悲だと云っても許されるのではないか?
「丁度いいや、お背中お流ししますぜ」
「いらねェよ」
 思わずつんとしてしまったところで、責められる謂れなどない――これでも、一応妙齢の女(生物学的に)なのだ。その風呂に、一緒に入ろうとするだなんて!
 ――鈍感っぷりにも程があるわ、ボケェ!
 女に晩熟だとか、そう云うレベルの話ではない。常識のラインを大きく外れている。これがもし勝さんだったなら――
 ――まァ、あの人は、入ってくるよなァ……
 違う意味で。
 しかもその上、「どうもおめぇさん、女ってぇかんじがしねぇんだよなぁ」とか云いながら、ははっと笑われてしまいそうなのだが。
 それでも、総司のこの鈍さよりは全然マシだ――こちらを(一応)女扱いしている分だけだが。
 もちろん、総司にこの気持ちが通じるはずもなく。
「まァまァ、遠慮しねェで」
 などと云いながら、のそのそと入ってこようと、扉を開ける。
 その顔へ、思いっきり桶を投げつけてやる。
 と、
「うわァ、危ねェ危ねェ」
 余裕で片手で受けながら、へらへらとそんなことを云う。
「入ってくんなーッ!」
 叫びながら、お湯をかけたら、やっとのことで撤退した。
 後で、脱衣所の床を拭かないと、しみになって大変なことになるが――最大のピンチはともかくも去ったのだ。
 ――って云うか、こういうピンチってさ……
 思わず遠い目になってしまったのは、内緒のことだけれど。


■「沖田総司」と一緒に寝ることに! あなたはどうする?


 総司が、同じ部屋で寝たいなどと、阿呆なことを云い出した。
「寒くって仕方ねェんでさァ」
 そう云いながら、もそもそとベッドにもぐりこんでくる。
 それは、こっちも湯上りで温まった足を、ベッドに突っ込んではいるけれど、しかしながら、
「……まだ寝ないんだけど」
 云ってやっても、総司はお構いなしに、ベッドの中にもぐりこむ。
 ――仕方がない。
 だが、ブログの更新もあるし、それに(珍しくも)仕事を持って帰っているので、まだ寝ることはできないのだ。
 ごろりと横になった総司の隣りで、PCを立ち上げ、excelを開く。来月のフェアの選書をしたので、それを取次に発注するために、一覧を作らなければならないのだ。
 かたかたと打ち込んでいると、
「……まだ寝ないんですかい」
 総司が、眠そうな目で、そう云ってきた。
「だから、仕事があるって云ったじゃん」
 キーボードを叩きながら応えると、
「……さっきまでだらだらしてて、こんな夜更けから仕事ですかい。とんだ宵っ張りの朝寝坊だ――そういうところも、土方さんと同じですねェ」
 などと云ってくる。
「やかましいわ」
 云いつつ、キーボードをかたかたかた。
「そんなこと云って、さっき、十二時過ぎたって云ってたじゃあねェですかい。十二時ってな、あれでしょう、子の刻ってェことでしょう? こんな時間まで起きてるなんて、灯り代の無駄でさァ」
 土方さんと同じですぜ、と云うひらめ顔に、低反発枕を押し付けてやる。
「寝ろや」
 ――そしてとっとと沈んでしまうがいい!
 と思っても、そういう時に限って、ことがうまく運ばないのはお約束で。
「……ねェねェ、もういい加減寝て下せェよ。明るすぎて眠れねェんでさァ」
 と云われたのは、午前一時になろうかという時刻。
 横でがたがたと云われ続けて、仕事をやる気はすっかり薄れてしまった。
「……あァ、もう止めだ止め」
 こんな調子では、終わるものだって終わらない。集中力など、とっくに切れていて。
「……寝る」
 PCを落として電気を消し、もそもそと掛け布団をたくし上げ。
 目を閉じると、隣りの温度が心地よくて。
 そのまま眠りに落ちたのは、ほんのすこし後のことだった。


■お休みなさい。では次に妄想させる人を何人でも! キャラも指定して下さい!


 何だかんだで、総司は無事に(?)帰っていった。
 ――もう来るなよー。
 と思ったのは、何も総司のためばかりではなく。
 聞けば、沖田番のところにも、同じ時期に土方歳三が来ていたらしい。総司から聞いていたのとほぼ同じ生活ぶりで、
土方歳三は、朝寝坊のTVっ子だったよ(にこ)」
 とは、沖田番の科白だ。……何となくムカついたので、奴も逆毛にしておいた(←苛め)。
 しかし、そうか、土方はやはり宵っ張りの朝寝坊か――それは、総司のように、朝早くに叩き起こされることがなくて良さそうだ。
 ――いっそ逆だったらよかったのにな。
 とは云え、もしこちらに来たのが土方の方だったとしても、うまくやれたかどうかは定かではないが。生活のリズムが似ているだけ、齟齬がなくて良い、というレベルの話にしかならないような気もする。
 やっぱり勝さんだったら良かったのに――たとえ、夜半過ぎに帰ってきた挙句、自分の入りたい戸口(玄関やお勝手とは限らない)が開いていなかったと云って、雨戸をがんがん叩くような人だったとしても。
 ――まァいいや。終わったことだし。
 と思いながらソファに沈み込み、紅茶を飲む。
 と。
 ピンポーン――
 チャイムが鳴って。
 ドアフォンで応対していた母が、微妙な表情でこちらをむいた。
「――沖田さんがみえたわよ」
 ――え。
 固まった次の瞬間。
「こんちわー。また来ましたよー」
 表の戸を叩いて呼ばわる、憶えのある声が、呆然とする耳に飛び込んできた――


† † †


あの子と同居バトン
指定キャラ→『土方歳三


まさかガスパッチョの無い家の箪笥から、‘奴’が出現するとは思わなかった。
土方歳三――幕末の時代、新撰組の鬼の副長として、また函館戦争を戦い抜いた武の人として名高い人物である。
イケメンとしても知られた男であるが、素で見ると割りとフツーだ、と、思ったのは、ファンの人たちには内緒にしておこう。
ガスパッチョのCMでは、歴史上の人物達は、来るのも帰るのも自由自在だというのに、ガスパッチョが無い家だったせいか、‘奴'はすぐに帰れなかった。
軽いパニックの後、‘奴'は、帰る機会を腰をすえて待つことにしたらしい。
肝が据わっていると言うのか、なんと言うのか。
そんなこんなで、‘奴'が居ついて、早1週間。


■朝はあなたと「土方歳三」、どっちが先に起きてる?


朝5時。起床時間のため、寝台から降りた。
――だが、‘奴'はまだ寝こけている。
執務がないせいか、惰眠を貪る気まんまんと言ったところか。
眠たくても眠れぬ身の上からは、つくづく恨めしいやら、妬ましいやら。
落書きをしてやろうと思って、油性マジックを手に取る。
目蓋にパッチリ目を描こうとして、インクが切れていることに気づく。
――……運のいい奴だ。


■朝食どっちが作る? 何がいい?


ご飯に味噌汁にシシャモ。そして漬物。
味噌汁の具にはホウレン草も放り込んであるから、おひたしも兼ねていると思うがよい。
――上等だ。
もくもく朝食を消費していく目の前で、なおも惰眠を貪る幕末の雄。
窓の外には雀のさえずり。
――世の中平和になったもんだ。


■そろそろ学校(仕事)の時間です。「土方歳三」はどうすると思う?


まだ起きないつもりらしい。
気まぐれな飼い猫のほうが、‘これ'よりはまだしも愛想があるものだろう。
――うりゃ。
ちょっと踏んでみたら、「ぐぇ!」っと変な声で鳴いた。
ペットには向いていない。


■学校(仕事)帰りに「土方歳三」とばったり! 相手の反応は?


ビルを出たところで、声を掛けられる。
「おう、いま帰りか」
「――……わぁ、土方似の土方さんだ」
古い写真に瓜二つの――本人なのだから当たり前だが――顔をさらして、この男は往来を闊歩していたのか。
まあ、誰も本人だとは思うまいが。
「よく電車乗れたね」
「あァ? 歩いてきたぞ。散歩がてらに」
ここは西新宿。家からは、車で約1時間の道のりを、徒歩でとほとほ、と。
微妙にオヤジギャクりながら、遠い目。
「……昔の人は足腰丈夫だな」
「おう、帰るぞ」
「帰りは電車に乗るさ」
そっとスイカ を手渡せば、‘奴'は物珍しそうに、ためすがめつ。


■家に帰ったけど、あなたはやることがあります。そんな中「土方歳三」はどうすると思う?


賑やかな笑い声が聞こえる――バラエティ番組の。
ときどき混じる生の笑い声は、‘奴'のものに他ならない。
帰宅するなり、電源の入った『電動紙芝居装置』の前にどっしりと陣取って、茶など啜りこんでいる。
TVは‘奴'のお気に入りだ。ニュースから旅番組、バラエティにアニメまで。点いていれば何でも見る勢いで。
持ち帰った仕事を片付けるあいだ、邪魔をしてくれるなと言い置いた。TVに夢中の‘奴'は、確かに邪魔はしてこない。
邪魔はしてこないのだが―――TVが邪魔だ。
正直、煩いし気が散るし。
こっそりコンセントを抜いてしまうと、やたらと驚いた声が上がった。
「うお!? なんだ絵がでねェぞ!!」
「――そーだねー」
「壊れたのか?」
言いながら、TVをバンバン叩くのは止めたまえよ。
持ち上げるのも止めたまえ。
ああもう、まったく。仕方が無い。
音量を落とすことで譲歩した。


■さぁ、夕食にしよう! どっちが作る?


豚カツと、揚げ物ついでにエビフライ。
白米大盛り。キャベツの千切りも山盛りで。トマトをカット。レモンもつけて。
味噌汁はワカメだ。
漬かりすぎて、ちょっと酸っぱくなったキュウリの漬物も切ったりして。
「変わった天麩羅だな」
「天麩羅じゃなくて、豚カツとエビフライ!」
「どう違うんだ?」
「衣が違うのさ。フライはパン粉をつけて揚げる。天麩羅はパン粉をつけない」
無論、それだけが違いではないが、ここで詳細な食談義をしても始まるまい。
「……?」
「喰ってみるがよろしい」
それが一番手っ取り早いと、揚げたてをくれてやる。
「アチッ! お? うめェな!」
「美味いか。うむ。もっと喰うがよろしい」
褒められたのに気をよくして、大盤振る舞い――つまみ食いの範疇を多分に超えて。
危うく食卓に乗せる分まで食い尽くされるところだった。
やれやれ。
だけど、こんな食事もかなり愉しい。
秘蔵の日本酒だって出してしまおう。


■夕食も終わり、テレビに夢中なあなた。「土方歳三」の反応は?


楽天の若き投手が、マウンドで険しい顔をしている。
うぉお。頑張れ まー君!!
甲子園のマウンドに君が立っていたときから応援させて貰ってるのだ。
ありがとう! キミのおかげで、野球がまた愉しくなったし。
手に汗握って、息を詰める。
投げた!
――打った!? って、打つなよバカバカバカ〜ッ!
って、ファール? ファールか、よし!
行け! まー君行け!!
「面白れェな」
「おうよ!」
「お前ェの百面相がだよ」
ふざけた事を抜かす‘奴’の胸倉を片手で掴み、残る片手でTVを指差す。
「画面を見ろ! まー君の勇姿を拝め!!」
「あ。打たれたぞ」
「うええええええェ〜〜〜ッ!?」


■なんとお風呂で「土方歳三」と遭遇! どうする?


ふん〜ふんふふんふふん〜るりら〜〜〜♪
勝利投手まー君。
ふふふ。楽天勝った、勝った〜♪
いやいや、こりゃいい湯だね。ふふぅん。
鼻歌にも、自然、力が入ろうというものだ。
気持ちよく湯に浸かっているというのに――
「オイ! どーした!?」
突然、フロ場の戸が開いて、‘奴’が緊張した顔を覗かせた。
漲る気合と言うのか、剣気というものか、肌をチリチリさせそうな気配が湯気に混じって、剣呑なことこの上ない。
一体何事が起こったと言うのか。
「……『ヲイどーした』は、こっちの台詞だと思う」
「地獄の底から響くような呻き声がしたぞ!」
「どこから?」
「風呂場だ」
「……ここ?」
「おぅ」
「……鼻歌だったり?」
「あァ? まさか!」
「ふんふふん〜ふんふん〜♪ とか?」
「……それ鼻歌なのか?」
「鼻歌だよ」
「――……邪魔したな」
バタン――と、風呂場のドアが閉められる。
一人残されて。
「音痴で悪かったさ!」


■「土方歳三」と一緒に寝ることに! あなたはどうする?


「いい加減にテレビを消すがよろしい」
23時を回っても、まだギャンギャンと騒ぐブラウン管の前に陣取る男の背中を軽く小突く。
この宵っ張りが。
「あと少し良いだろ。これ面白れェんだって」
「ビデオとってやるから寝るがいい」
「後でも見れるやつか」
「そう。明日の昼に見てりゃ良いさ」
「昼は昼でやってる番組あるじゃねェか」
「こンのTV中毒が〜〜っ!」
新撰組の鬼がソレで良いのか!?
とりあえず‘奴'の利き手を取って、胸に引き寄せ、上体と肩を両足で押さえ込んで、背を反らす。
腕拉ぎ十字固め――得意技を炸裂させれば、確かな手ごたえ――は、あるのだが。
「ハン、これで決めてるつもりか!」
さすがに新撰組の鬼。
ジリジリと腕を奪い返され――て、なるものかと、腕と腹と背に力を入れまくる。
「ふぅぬ〜」
「うぉ!? くそ、させるか!」
「ふぅぬ〜」
「――させるかぁ!」
TVを消させるためだけに、何故にここまで苦労せねばならないのか。
どたんばたんと、午前0時。
ようやっと‘奴'を寝台に押し込んで、さあ就寝。
ウトウトと微睡む隣で、ゴソゴソと蠢く気配。
一拍後、暗闇にチラチラと踊る光と、あふれ出す音。
またTVの電源入れやがったし!!
安眠は、まだ遠い。
第2ラウンドのゴングが鳴った。

  • -


午前3時を回って、ようやく‘奴’が寝付く。
ぐったりと隣に横になれば、鼻の先に、黒い鬣のような‘奴'の髪が。
同じシャンプーの香り――の、はずが、染み付いた血の匂いがした。
人斬りの匂いだ。
幕末の闇を駆け抜けて、明治の黎明に背を向けて散った男。
眠りに落ちる目蓋の裏、一瞬に過ぎる光の軌跡が、弧を描く剣の太刀筋のように鮮やかに剣呑で、ほんの微かに身震いが出た。

  • -


ガスパッチョの無い家の箪笥から‘奴’が出現してから1週間と1日目の朝。
ようやく出入り口が繋がったらしく、こんなときだけは寝坊しない'奴’は、短い挨拶を残し、幕末の時代へと帰っていった。
狭いはずの部屋が、なんだか広く見える。
寂しい、なんて思うのは、間違いだ。
人にはそれぞれに生きる世界というものがあり、今回の邂逅は、なにかが間違って起こってしまったに違いないのだ。
世界はあるべき形に。
だから、寂しい、なんて思うのは間違いだ。
たとえ、ひとり分、余分に朝食を作ってしまうミスなんかを犯しても。
白いご飯粒を、溜息と一緒に噛み締めて飲み込む。
案外、愉しかったよ、土方歳三
おみやげに、テレビを上げられればよかったね――でも、あっちは電気普及してなくて、まだ見れないか。
なんて、小さく笑って。
またひとりの部屋に慣れなくちゃ、なんて。
毎日忙しいから、日常に埋もれるのなんて、ほんとに直ぐだし。
なんて。
ご飯がしょっぱい。
でも、美味しいもんね。


■お休みなさい。では次に妄想させる人 を何人でも! キャラも指定して下さい!


ボスに『沖田総司』でバトン投げ。うりゃ!
天祥には『山南敬助』で!

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それから数日後、突然に、また箪笥が開いた。
「おう、来たぞ!」
土方歳三――幕末の時代、新撰組の鬼の副長として、また函館戦争を戦い抜いた武の人として名高い人物である。
ついでにテレビの好きな朝寝坊。
「――なんで?」


世界は不思議に満ちている。


† † † † †


……長! (特に私が)
しかしまァ、うちの鬼と総司だよね――どっちもどっち。
私の書いたような総司はアレとして、朝寝坊でTVっ子の鬼、ってのは、まァ他所では見ないよね――現代ものとかでもな。まァTVっ子だと思いますが(苦笑)。
勝さんの方が良かったなーと、文中3回書いてますが、実際勝さんだったら、それはそれで非常に大変だと思います――出かけて、出先で女口説いて、そのまま連れてきそうだもんなァ……はっきり云って、勝さんの“人物”と、先を見る目は尊敬してますが、こと女に関しては、まったく信用しておりません。えぇ。


しかし、山南役は、指定キャラ「山南敬助」かよ――それはどうなんだろうか。かっちゃんが駄目(山南役はかっちゃんが嫌い)なのはわかってるけど、うーん……
とりあえず、私のバトンは、お好きな方が持ってって下さい――指定キャラは、お好きな幕末キャラで。
あ、あと、これはお遊びですが、沖田番→総司、私→鬼、と云う組み合わせでやってみるのも手かなー、と云う話をしていたのですが……休日篇で。
見てやろうかと思われる方は、是非、念波で一票! (←え) ニーズがありそうだったら、やってみようかと思っておりますので。


あ、そうそう、私の方の仕事=フェアの選書、は本当にしてまして。
ついでに来年の大河・篤姫のフェアなんで、フェアが開始したら、選書のラインナップを戴っけてみようと思ってます――「文庫・新書で読む天璋院篤姫」って感じのラインナップなので。職場でも云われましたが、超↑マニアックですよー。ふふふふふ。


さてさて、では、次は阿呆話――大野右仲と崎さんと安富(←増えてるよ……)を苛めてやる……!