北辺の星辰 27

 九月も末ちかくになって、歳三は、新撰組と合流した。
 新撰組は旧幕軍とともに、しばらくは松島に駐留していたのだが、この日、里村島と呼ばれる島にある、里ヶ浜へと転陣することになったのだ。
 塩竃に駐留することになった幕軍本隊とともに、ここで仏人士官ブリュネによる演習を受けた後、かれらは今度は、さらに東、石巻に移動することになったのだが。
 この移動先の石巻で、問題が起こった。
「某どもは、蝦夷地に渡航相成った上は、主君の許に馳せ参じる所存」
 そう云いだしたのは、松山藩士・依田織衛だった。
「辻さまが如何様におっしゃったかは存じませぬが、我ら松山藩士、主君あるにも拘らず、そのお傍にお仕えせざるなどあり得ぬこと。貴殿も、さようお心得あれ」
 尊大なもの云いに、流石の歳三も眉を寄せた。
「――幕軍内にあっては、諸侯はあくまで客分としておいで戴くとの向きで、意見がまとまっている。さればこそ、諸侯の随員は三名までと定められたと云うのに――貴殿は、それを有名無実のものとしようと云うのか」
 随員の人数を抑えることを提案したのは、松平太郎だったが――歳三にも、その企図するところはよくわかった。
 つまりは、松平は――そしてもちろん、榎本も――、幕軍を、あくまでも徳川宗家を主とする集団にしておきたいと考えているのだ。
 もちろん、諸侯が同行することに否やを唱えるわけではない。ただ、かれらをその裡に抱えこみつつも、幕軍全体としての主は、駿府にある徳川宗家にしておきたいのだ。徳川の復権をこそ、榎本たちは望んでいるのだから。
 権威づけのために、諸侯の存在は役に立つ――が、かれらにあまり力を持たせては、のちのち幕軍の方針にもぶれが出てくることになるだろう。榎本や松平が、諸侯の随員を抑えるのは、かれらの力を削ぎ、発言力を弱めることによって、自分たちがこの巨大な軍勢の指揮権を握り続ける、そのためであるのは明白だった。
 そして、榎本たちの下についた以上は、歳三も、かれらの意思に沿って動くことが求められる。依田の云うようになど、できるはずもなかった。
「随員の員数など、所詮は建前よ」
 依田は、頭を反らして云い放った。
「我らには松山藩士の誇りがある。貴様のごとき成り上がりなどに、指図は受けん」
「……貴様」
 歳三は、歯を剥きだして、獰猛に唸った。
「……よかろう、貴様の所存はよくわかった。俺は、松山藩士を受け入れん。蝦夷地へ渡航するは、他隊をあたるがいい」
 辻七郎左衛門には申し訳なかったが、しかし、隊規を乱すと知れたものを、受け入れようとは思えなかった。
 歳三が松山藩士の受け入れを拒んだことに驚いて、その辻七郎左衛門がやってきたのは、翌日のことだった。
「申し訳ござらぬ、土方殿」
 辻は、床に額をこすりつけんばかりにして謝罪してきた。
「あいや、辻殿がそこまでなさることもございますまい」
 歳三は慌てて制したが、辻は頭を上げようとはしなかった。
「いいえ、依田が無礼は、私の所業も同じこと。土方殿の面目を潰すようなことと相成り、誠に申し訳なく……」
「辻殿のせいではござらぬ。お気になされますな」
「いや、しかしながら……」
「辻殿」
 歳三は、辻の言葉を遮った。
「依田殿らの意思がかたいのであれば、私がどうこう申すまでもないこと。依田殿らのよいようになされば良いのです。新撰組の他にも、隊は幾つもございます故」
「いえ、そうは参りませぬ」
 辻は、なおも食い下がってきた。
「このままでは、私の面目もございます。依田を説き伏せ、必ずや土方殿に従うよう諭しましょうぞ」
 ここまで云われて断っては、辻の面目を潰すことになる。
「――そこまで仰せになるのでしたら……」
 歳三は折れた。
「わかり申しました。それならば、辻殿の説得をお待ち致しましょう」
「かたじけない」
 また頭を垂れる辻に頷いてはみたものの。
 歳三は、かれの説得が功を奏するのか、疑問に感じていた。
 依田のような人間が、一度突っぱねた相手に、おいそれと頭を下げられるのだろうか――そしてまた、たとえひとたびは頭を垂れてきたとしても、そのまま蝦夷地到着ののちまで、歳三に対して従順な顔を見せ続けるかどうかは、まったく確信できない話であった。
 ――とは云え、辻殿の説得がうまくいくと云う保証もないのだしな。
 とりあえずは、松山藩士抜きで隊内の役職を割り振り、もはや新撰組ばかりにかまけてはおれぬ歳三なしでも、ものごとが速やかに運ぶよう、組織だてを組み直さねばならぬ。
 ――とりあえず、当座の隊長は、森殿にお任せしようか。
 森常吉――元の彌一左衛門――は、京都所司代公用人であった。かれの京での職掌や経歴などを鑑みれば、森を新生“新撰組”の頭に据え、その下に旧新撰組から指図役を、また、つり合いを考えれば、唐津藩士の中より小笠原胖之助――今は三好胖――あたりを同格でもってくるべきだろう。
 その上で、各藩士、伝習隊士たちを小隊にわけ、今やわずかとなった旧新撰組隊士たちを、それぞれ配してやる。
 松山藩士はわずか八名、もしも本当に入隊してくるのであれば、その時はその時――人数をすこしばかり動かして、適当な隊に平隊士としてかれらを入れてしまえばよい。
 ひとたび自分に抗った人間を隊内の要職につける気など、もとより歳三にはありはしなかった。
 それをすれば、かれらはつけあがることになるだろうし、そうなれば他の隊士たちにも影響が出る。生死をかけて戦わねばならぬ以上、締めるべきは締めておかねばならぬのだ。
 ――まァ、どのみち大勢に影響はなかろうさ。
 この先は、新撰組すらも、諸隊の一部に過ぎなくなる。旧新撰組の血を薄め、歳三より遠ざけておかねばならぬ――来るべき幕軍敗北の日のために。
 歳三は、割り振りを簡単に書きつけると、それを見直し、懐に収めた。



 それより数日ののち、依田織衛以下松山藩士八名は、再度新撰組への入隊を申し入れてくることとなる。


† † † † †


鬼の北海行、続き。
何かこの辺、地図と首っ引きですよ……


依田織衛登場。例の、鬼と揉めた松山藩士。
どうもこの人、どんなんだったかイマイチわからないのですが、箱館で森常吉(=彌一左衛門)さんとも揉めていたらしいので、多分依田の方の性格に問題があったんだと思う……鬼だけならともかく、他とも揉めてるからな。
そんなこんなで、こんな具合です。森さんは、腰の低いいい人なのになァ……


さて。
激安価格で出ていたので、いろんなサイトさんで目にしていた『散華 土方歳三』(萩尾農 新人物往来社の方)を古本でGet。PN見て、勝手に男だと思ってましたが、女性なのか。はー、なるほど、“ナイーヴな”鬼、ね、“腐女子”、ね。うん、納得。……あれ、この人、10年〜20年前に住んでた家の割と近くにお住まいだ('89ってことは、たとえこの後引っ越しされてても、若干かぶってる……)。まァ、何て偶然。
しかしまァ、女性の書く鬼ってこう、何か無駄に色気があったり、無駄にナイーヴだったりして、笑うしか……
っつーかアレだね、女性の書く鬼がこんなのばっかだから、私男だと思われやすいのか。
うちの鬼、ヘタレだけど、ナーヴァスにはなるけど、こういう(乙女っぽい)ナイーヴさとは無縁だもんなァ。ははははは……


でもって、ついでに久々にピスメ(最初の)をGetして読み返してみましたが……ははははは、稔麿んが何か! すっげイメージと違って笑えます。めっさ老けてるよね! (稔麿ん、ホントはこの時24よ?)
あと崎、と平ちゃんとぱっつぁん(総司は云わずもがな)。鬼は……まァ、ドリーム入ってるとのことなので(苦笑)。
「鐡」の方だと、一ちゃんとかもイメージ違うしね。っつーか違い過ぎ。
まァ、気合いと根性があったら、「鐡」と画集もGetするかも。「覚書」は、江戸・東下、両方とも手に入れたからなァ。


引き続き『独眼竜政宗』DVD鑑賞中。Disc3、4と見てますが……相変わらずの羞恥プレイ(苦笑)。
っつーか、現代の女が、戦国武将とやってることが一緒ってどうよ。荒れてるとこ(暴れまわってものにあたる)とか。
しかし、同時に、御東の方=義姫と、今おかんのもの云いがそっくりって、それもどうだ。うん、こんな人だよ、おかん……そして、私の反応も殿とおんなじ。まったく、どんな家庭でしょうかね……(苦笑) しかし、あの御東様を見ていると、自分もいらっとしてきますね。くたばれこんな親。とか云ってたらいかんのだろうな……ふぅ。
しかし、愛が弱々……こんなんで、戦国武将の妻が務まるのか。ふふぅ。
そして猫……何と云うか……沖田番と同じタイプだよね……色気はないけどね、沖田番……秋.吉.久.美.子だったら良かったなァ、猫……
っつーか、『政宗』見てるせいで、若干書いてる言葉が大時代になってるような気が……


この項、終了。手直しが必要かも(眠い頭で書いてるから……)。
次は観劇記〜。