小噺・守衛新撰組

「土方さん、ちょっと訊きてェんですけどね」
「何でェ」
「“守衛新撰組”ってェな、何のことですよ?」
「……何だそれァ」
「俺の方が訊いてるんですけど。――何か、箱館戦争ん時にあったみてェで、島田さんが隊長だとか……」
「そんな名前の隊は、知らねェなァ」
「……あァ、何か、隊員の名前が“いんたーねっと”に……立川主税、沢忠助、蟻通勘吾、って、みんな古株ですねェ」
「あァ、その辺がそれなら、あれだ、俺の護衛が必要ってんで、島田が集めてた連中だ。特段名前なんぞつけてなかったと思ったがなァ」
「島田さんが日記ん中で書いてるそうですから、後んなってつけたのかも知れませんぜ。――しかしまァ、これァ“土方歳三親衛隊”ってェやつですかねェ」
「……何だそれァ」
「あれ、知りませんか? “L・O・V・E・ひ・じ・か・た♥”ってやつでさァ」
「……さっぱりわからん」
「そう云うもんらしいですぜ。要するに、あんたを熱烈に敬慕してる、ってことでさァ。――となると、ここに相馬さんやら安富さんやらが入ってねぇってのは、腑に落ちねェなァ」
「……相馬はともかく――安富も、か?」
「あれ、知らなかったんで? 安富さんも、島田さんやら相馬さんやらと同類でしたぜ? 何たって安富さん、近藤先生が金の無心をしたときにゃ、“今回は出ません”とか云ったくせに、その後すぐに、羽織の袖が抜けかけてるってェ、買い換える金、あんたにそっと渡してましたからねェ」
「(あん時ァ、そんなことがあった後だったのかよ)……だがそれァ、近藤さんの金の無心が、女がらみだったからじゃねェのか」
「まぁそうですけど。安富さんは、面白い人でしたもんねェ、一遍、俺の差料買ってくれたとき、気がついたら隊の金で何か足りないのがあったとかで、違う差料よこして、前の持ってきましたからねェ。何でも、その波紋のいい刀ァ、拵え直して箔つけて、どこぞの金持ちに高く売りつけてたってェ聞きましたからねェ(爽笑)」
「……仕方ねェだろう、隊を回すのにゃあ、どうしたって金が要るんだよ」
「いや、それはわかってますけどね。ただ、安富さんのやり方が、そりゃあすげぇ手並みだったもんで、感心しちまったってェ話でさァ」
「……」
「まぁ、相馬さん、中島さん、島田さんあたりは別格ですもんねェ。何たって、監察方は、それこそ“土方歳三親衛隊”ですもん、無事だったらきっと、山崎さんだってその中に入ってましたさァ。……あァ、相馬さんと云えば」
「……何だよ」
「いや、あの人、何か愚痴りたいことがあると、俺んとこ来て“沖田さん、呑みに行きましょう”って云ってたんですよねェ。で、仕方ないからついてくと、愚痴がもう、立て板に水みたいな勢いで」
「……あの相馬がか」
「そうでさァ。いつもぼそぼそ喋ってるってェのに、そん時だけァねェ。どのくらいすごいってェ、この俺が! この俺がですよ、合いの手ひとつ入れる間もねェんですから、わかるでしょう?」
「あァ、そりゃあすげェや。――しかし、あの相馬がなァ……」
「相馬さんもあれですけど、島田さんも酷いんですぜ」
「……何がだ」
「やっぱり相馬さんが煮詰まってるとき、島田さんが一緒に呑みに誘いにきたんでさァ。相馬さんとふたりだけじゃねェからってェ油断してたら、島田さん、俺置いて消えやがるんで。それで結局、俺が相馬さんの愚痴の聞き役でさァ。まったく、あれは散々でしたぜ」
「島田……(遠い目)」
「おまけに相馬さんにゃ、“副長の心労を増やすな”ってェ説教くらうし、本当に散々でしたねェ」
「それァ俺も、相馬の意見に大いに賛同するが――しかし、何て云うか、まァ……(溜息)」
「相馬さんも島田さんも、揃うと“副長が”って、そればっかりでしたしねェ。何だって、あんたがそんなにいいんですかねェ。わからねェなァ」
「……おめェに云われるなァ心外だが、確かに俺もそう思うぜ。本当に、俺のどこがよくって、箱館まで来やがったんだかなァ」
「まったくでさァ」
「……あんまり云いやがると、わかってんだろうな?」
「ほらほら、そう云うところとかがね。本当に、わかんねェですよねェ」
「……自分で同じに思ってようと、おめェにそうやって連呼されるとむかつくぜ……」
「あははははは」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。
勝さんネタと迷ったんだけど、今回はこっちで。


守衛新撰組、と云いながら、安富さんの話だったり相馬の話だったり。
どうも私の中では、相馬はあまり野村と仲が良くはなく、どっちかっつーと迷惑かけられてキレさしてたり、というイメージ。島田‐相馬は仲良しだけど、普通に酒呑みにいくくらいの感覚で。


いやしかし、云っちゃあ何だけど、ホントに何で鬼がそんなよかったかな……それだけはわからねェ。ヘタレだしカッコつけ激しいし(箱館戦争あたりは、カッコつけ続けるのでくたくただったと思いますよ)外道な上に阿呆ですが……何故、親衛隊的なものをつくれるくらい惚れこんでいるのだ! わからん!


島田さんは、別件でネタがあるので、また次の機会に、源さんと一緒に(笑)。
あああ、勝さんネタも、いずれ書きたいわ……


次は、多分鉄ちゃんの話、だろうなぁ、きっと……