小噺・市村鉄之助の儀

「……土方さん、そう云や思い出したんですけど」
「何でェ」
「市村君いたでしょう、あんたの小姓だった。あの子、今どうしてるんですかねェ?」
「さァなァ。噂じゃあ、俺が日野へ使いにやった後、しばらく経ってから、大垣の実家へ帰ったってェ聞いたが――その後がなァ。西郷南州の乱に加わって討ち死にしたのってェ噂だったが……どうも、あの市村がと思うとなァ」
「あんまりそう云うくちじゃあねェですからねェ、市村君。そう云や、病死とか云う噂も聞きましたぜ?」
「……なら、おめェの労咳が感染ったんだろ」
「……だから、あんなに云ってたのに。――しかしまァ、市村君可愛かったですよねェ。何て云うか、そう、猟犬の仔犬みてェで」
「まァ、田村なんぞよりァ、愛想なしだったからなァ。まァその分、懐くと徹底して懐いてきたけどな」
「市村君、可愛いって云ってやると、こう、眉間にしわが寄るのがまた可愛くってねェ。つい苛めたくなっちゃうんですよねェ(にこ)」
「……市村も不憫だなァ」
「酷ェことをおっしゃいますね、土方さん? ――しかし、こうして喋ってると、市村君がよく、にこにこしてたのを思い出しますぜ。何でかあの子ァ、俺らが他愛のねェ話してんの好きでしたよねェ」
「あァ、あれァ不思議だったよなァ。口ァ挿んでこねェで、にこにこしながら聞いてたよなァ――何だったんだろうな、あれァ」
「さァねェ。まァ、あの子も不思議な子でしたからねェ」
「まァ、一本気な奴だったなァ」
「あんた、可愛がってましたもんねェ。――そう云や、ふと思い出したんですけど」
「何でェ」
「あんた、小姓連中けしかけて、俺から一本とったら何かやるとか云いませんでした? 何か、近藤さんの小姓なんかも含めて、えらい人数で襲われたことがよくあったんですけど」
「……あァ〜」
「やっぱり。何やるって云いやがったんでさァ」
「おめェから一本とったら、俺の脇差やるって云ったのさ(ニヤリ)」
「あんたの脇差ァ、赤拵で目立ちますからねェ、そりゃ必死にかかってもきますねェ(溜息)。それにしても、俺ァあん時、もうちょっと具合が悪い時期だったんですけどねェ?」
「ぴんぴんしてるおめェから、奴らが一本取れるかってェの」
「……確かに。でも、大変だったんですぜ? 最初はまァ、ひょいひょい避けてりゃよかったんですけど、そのうち徒党を組んで、役割決めてかかってきやがるんで。斥候が出て、逃げられないように回りこんできやがるんで、結構手こずらされましたさァ。特に市村君なんか、殺気こめてぶつかってきますからねェ。避けると逆に怪我させそうで、いなすのに苦労しましたぜ」
「斉藤を巻きこんだんで、怪我した奴が出たとかってぇ聞いた覚えがあるが?」
「そんな、いつもいつも一対八とかじゃあねェ。それに、実戦じゃあ何が起こるかわかりませんからねェ(爽笑)」
「……つくづく、おめェってな外道だなァ」
「小姓鍛えるのに、病人を巻きこむってェあんたにゃ、云われたかァありませんぜ」
「おう、おめェのお蔭で、小姓連中の腕も上がって、何よりだったぜ(笑)」
「こっちはお蔭で、その辺に菓子買いに行くのにも一苦労でしたぜ。そう云やあんた、あのころ俺によく菓子買ってこさせてましたよねェ」
「あァ、まァ何だ、そんだけやって何もなしじゃあ可哀想かと思ってな」
「……残念賞ってェことですかい。――それで、よく、小姓連中が縁側に並んで、しょっぱい顔して大福とか食ってたんですかい」
「しょっぱい顔だったか(笑)」
「えェ、そりゃあもう。思わず俺、一緒に買ってきた自分用の大福食って、味確かめちまいましたからねェ。甘くて美味かったんで、余計にわけわかりませんでしたけど」
「はっはっは!」
「あれァ、俺にやられての悔し泣きだったってェことですかい。――あんた、本当に鬼ですねェ」
「それァ、褒め言葉として聞いとくぜ(笑)」
「褒めてねェですって。――まったく、市村君たちも、こんな人の下で大変だったんだなァ……」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。
今回は鉄ちゃん&小姓の皆さんのこと。


鉄ちゃんは、自分の中ではっきりしたイメージがあるので、それに従って書いてます。賢そうなんだけど、愛想はない(笑)、と。可愛いんだけど、Cuteと云うよりはこう――何か、日本犬(秋田犬とか)の仔犬ってカンジのイメージが。主と認めた人以外の命令は聞かない、みたいな(笑)。
田村くんは、そういう意味では八方美人と云うか、愛想が良いので、いろんなひとに好かれたみたいですね。だから、鬼も(多分)せびられて即榎本さんのところにやったり、春日さんの養子にしたり(本人の意思はどうだったんだ――いいですよ、でおしまいか?)出来たんだろうなァ。自分じゃなくてもいいとか思ったろうしね(笑)。
玉置くんは――多分、他所のサイトで読んだ小説の影響だと思うのですが、労咳のせいもあって、ちょっと儚いカンジが……きっと鬼は、療養中の玉置くんを、何だかんだ云って見舞ったり、誰かを見舞いに行かせたりしたと思います。総司と同じ病だし、総司を置き去ってきた罪悪感の分、気にかけてたんじゃないかな。
鬼的には、他に懐かない鉄ちゃんを、一番可愛がったんじゃないかと思います――あと、クセのあるタイプ好きだろうしね(笑)。


あ、しょっぱい大福(笑)ネタは、沖田番より。面白かったので、そのまま使っちゃいました。史実は知らんが、ああいう悪戯、鬼ならやるね! 残念賞になるのわかっててやるんだ――もう、嬉しそうに大福とか饅頭とかやるんだよ(笑)。酷い人だ(笑)、でもきっとそんな人。総司も病人なのに、そういうことに巻きこまれたりね――ああ、ホントに酷い(笑)。


しかし、ホントに鉄ちゃんの死因ってどっちだろう――いえ、話の中でどう書くかは、もうとっくに決まってるんですが。


さて、次はその鉄ちゃんの話の続きで。
この項、終了。