小噺・剣術談義 其ノ弐

「土方さん、ちょっと訊きますけどね」
「何でェ」
「あんたよもや、甲府から箱館まで行く間に、市村君に剣術とか教えたりしなかったでしょうね?」
「(何だ、そのもの云いは)……とりあえず、きっちり稽古見てやったりしたこたァねェなァ。てェか、俺も忙しかったんだ、そんな暇あるかィ!」
「そうですかねェ? 島田さんに聞いたら、あんたァ、箱館じゃあ、居眠りする暇ァあったそうじゃねェですかい」
「(島田の野郎……)蝦夷の冬ァ、寒くってよく寝れなかったんだよ! 昼間ァ、火ィ入れてるんで、ついうっかり……じゃねェよ! そもそも、何だって俺が市村に稽古つけたかなんぞ訊きやがんだ、あァ?」
「や、最近、市村君や玉置君が、源さんとこの道場に来てるって話したじゃあねェですか」
「あァ、そんなことァ聞いた覚えがあるなァ」
「まァ、玉置君にァ、俺が合気柔術の技ァ教えてるんであれなんですけども、市村君がねェ……日野の彦五郎さんとこで、剣術を習ってたとは聞いてたんですけど」
「……何か拙いのか」
「や、それ自体は拙かァねェですよ? 基本の型もしっかり習ってるみてェでしたし、身体もおっきくなってて、まァ昔よりァ格段に腕も上がってますよ」
「じゃあ、別に構わねェじゃねェか」
「まァねェ、それだけでしたらねェ」
「……何だ、奥歯にものの挟まったみてェなもの云いしやがって」
「いや、だって、市村君、あんたとそっくりな剣の振い方しやがるんで」
「あ?」
「いえね、そりゃあ最初の構えはきちんとしてますよ。俺が京で教えてやったのを、忠実に守ってまさァ。でもねェ、ひょっと出るんですよねェ、あんたとおんなじような剣の振い方ってェか、喧嘩の仕方ってェかが」
「……」
「いやもう、あんたとおんなじような構えで、身体ごとぶつかってくるんで、危なくって仕方がねェんでさァ。その上、追いつめられると、足は踏んでくるわ、拳は出るわ、頭突きはかましてくるわ、本当、誰かさんにそっくりなことしやがるんでさァ」
「……俺ァ教えてねェって云ってんだろうが」
「まァ、あんたがそんだけ云うからにゃあ、そうなんでしょうねェ。――それにしてもすごいですよ、市村君は。何しろ、こないだなんか、押さえつけようとしたら、二の腕に噛みついてきやがりましたし。着物の上からだったってェのに、歯形がくっきり残っちまいましたぜ。本当に、誰かさんそっくりでさァねェ」
「!!! 俺ァ、市村の前じゃあ、そんなこたァやってねェぞ!!」
「えェ、まァ、試衛館ん時だけでしたよねェ」
「!!!!! 総司、てめェ……(袂を掴もうとする)」
「まァまァ(かわす)。――しかしまァ、市村君、よくあんたのこと見てたんですねェ。大したもんですぜ。島田さんや安富さんなんか、“よく身につけたなァ”みてェな顔して、市村君のこと見てますしねェ」
「……それァおめェ、ハナっから、俺が教えたんじゃねェってェ、わかってたんじゃねェかよ!!」
「や、一応確認しておかねェと、ねェ(爽笑)」
「(この野郎……/怒)――大体おめェ、何だってェ市村の剣術の相手なんぞしてやってるんだ。道場の師範代ァ、斉藤の奴に任されてるとか云ってなかったか」
「や、まァそうなんですけどもね。ただ、子供って云うか、若い連中は、俺んとこにくるようになってるんですよ、いつの間にかねェ。一ちゃんが、歳のいってる連中を教えてるからだと思うんですけども」
「ちょっと待て、“若い連中”ってなァ、どの辺のことだ?」
「白虎隊の子たちですよ。星さんがいるせいだか、島田さんが構ってやってたことがあるせいか、よく源さんとこに来てましてねェ。それでまァ、その子らの相手は、俺がやるってことに、いつの間にか、ねェ」
「ふん、どうせおめェのことだ、子供らと一緒んなって、そこらを駆けずり回ってるだけなんだろ」
「そんなことありませんぜ。……まァ、ちょっとは一緒に遊んでますけども」
「ほらみろ。源さんに怒られてるんじゃあねェのか」
「まァ、“おめェは、率先して駆けずり回るからいけねェ”とは云われましたけどね。いいんですよ、面倒もちゃんとみてるんですから。……そうそう、その白虎の子らも、玉置君なんかと一緒に鍛錬してますぜ。市村君は、もうちっと大きくなっちゃってますけど、まァあの子も一緒にってことで」
「幾つだってェんだ、市村は?」
「二十一ですってさァ。背も、あんたよりちっとばっかし低いくらいになってますぜ」
「二十一か……そりゃあ、面変わりもしてるんだろうなァ」
「……まァ、男の子ですよねェ。玉置君と云い、負けん気が強ェったらねェですよ」
「何だ、そりゃあ」
「抑え込まれそうになったら、がむしゃらに反撃してくるってことでさァ」
「そりゃあ、あいつらも新撰組の隊士だってェことだろう。追い詰められそうになったら、前に出て攻撃しろ、が新撰組の戦術だからなァ」
「まァ、そうなんですけども。星さんとか、額兵隊やら伝習隊やらのひとたちとやりあうと、そこら辺が俺たちとの気合いの違いだなァとァ思いますからねェ。うちの連中ん中ではアレな方の野村さんだって、やっぱり他の奴らとじゃあ、気迫から違ってますしねェ」
「(アレってなァ何だ、アレってなァ)……まァ、新撰組ってなァ、そういう組織だからなァ」
「“人斬り”だの“狼”だの云われるわけでさァねェ。ま、それでも、あんたや市村君みてェなのァ、滅多に居やしませんがね。剣の試合で噛みつくなんざァ、犬ころよりもなお酷ェや(笑)」
「! 何だと! (怒)」
「おっと、ホントのことなんで、怒りやがった(笑)」
「総司、てめェ! (殴る)」
「おぉっと(避ける)。そろそろ、源さんとこ行かないと〜♪ (ひらひらと駆け去る)」
「畜生、あの野郎、減らず口ばっかり叩きやがって……! おぼえてろ、いずれ取っちめてやる……!」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。剣術談義その2って云うか。
剣術? 剣術なのかなァ……


えェと、江戸の剣術は、結構荒っぽかったらしいです。
村上もとかの『JIN 〜仁〜』にも出てきてましたが、足で蹴ったりとかは反則じゃないんだとか。「剣道」じゃなく「剣術」なんで、その辺も関係してるのかなァ――何しろ実戦用だもんなァ。
まァ、それでも、鬼の頭突きや噛みつきは、試合では反則だったみたいですけども(苦笑)。実戦ではありなんだよなァ、つーか、でも、ホントにそれはアリなのか……? (←噛みつき)


段々、小噺の源さんのとこは、大所帯になってます。が、まァ冥土なので、それもアリということで。白虎も以蔵も鳥さんも崎さんも中島三郎助さんも星さんも安富も大野右仲も、何もかんも一緒くた。
つーか、こんなんだったら楽しかったのになァ、箱館新撰組。……統率は執れなさそうですが(苦笑)。
つーか、勝さんがいないのが……(泣) まァ、ああいう人は、地獄の三丁目とかでうろうろしてたりはしなさそうなんですが(苦笑)。


そうそう、デアゴの「日本の100人」がもうじき完結なんですけども、何と! 別冊と称して、あと20人追加するらしい――「日本の120人」かよ!
20人の中に、小栗さんと岩崎弥太郎高野長英今川義元足利義昭直江兼継上杉鷹山が入るらしいのですが。あ、あと太宰も。
何か微妙なチョイスなのですが、小栗さんが入るのは素直に嬉しいな。いや、もちろん私は勝さん至上主義なんですが――小栗さんて、すごい勝さん意識してたから。
そう云や、高野長英って、脱獄中に勝さんと会ったことがあるんじゃなかったっけ? (確か)横山光輝? の学習漫画勝海舟」で読んだような気が。横山光輝じゃない人だったかなァ……あれで、勝さん熱に火がついたんだけど……


まァいいや。
えーと、次は鬼の北海行、やっと安富登場で……