同居バトン 休日編 5

 外階段を上がって、ビルの2階へ。そこが、件の「池田屋」の入口だ。
「……何ですか、この“沖田総司丼”ってのァ――しかも、江戸と京とがありやがる」
 総司が、昇り口に据えられたメニューを見ながら、訝しげに云う。
「“土方歳三丼”やら“斉藤一丼”やら……あァ、近藤先生のもありますねェ」
「……ここの御主人が、新撰組が好きなんだってさ」
 そういってから、はたと思い出して、幕末組をくるりと振り返る。
「最初に云っとくけど、いい、ここでは絶対迂闊なことは云わないでよ? そりゃあ、この辺は“土方さん”はいっぱいいるから、名前を呼ぶなとは云わないけど……」
「大丈夫、俺ァぴたっと口を噤んでまさァ」
 と、総司は爽やかな笑顔で、さっぱりあてにならないことを口にした。
「それよりも、土方さんの方が問題ですぜ。この人、結構お喋りなんで、迂闊なこと云い出したら、叩いてやって下せェよ」
「あ、それやるやる〜」
 と、先程拳を中てられかけた沖田番が、嬉々として云う。
「でも、そう云うボスだって、かなりお喋りだからねェ? 総ちゃん、ボスが喋ったら、叩いてやって〜?」
「任しときなせェよ」
「待て待て、中てられたら問題だから! こっちは格闘もやらない一般人だから!」
 慌てて反論するが、沖田組は聞く耳を持たない。ふたりで、「「ねー」」などと云い合いながら、仕種だけは可愛らしく、頷きをかわしている。
「……まァいいや。入るぞ」
 促しつつ、引き戸を開けて、店の中へ。
「いらっしゃいませ、4名様ですか」
 女性の店員が声を上げ、それならこちらで、と、畳の席を示された。
「……何か、いっつもここじゃね?」
「そーだねー」
 と云いながら、幕末組を奥へ押し込み、自分たちは通路側に。
「さて、どれにするかな」
 メニューを開いて、首をひねる。
 印象が微妙な隊士――松原忠司谷三十郎鈴木三樹三郎など――は食べたくない、が、一番の愛の勝海舟=カツ丼は重そうだ。源さんと山南さんは以前食べたし、鬼と総司は隣りにいるし――
「――か、かんりゅうさいとか……」
「ホモ? ホモにすんの、ボス?」
 沖田番が、頓狂な声を上げた。
「だって、いくらが食いたいんだよ……」
 武田観柳斎丼は、いくらネギトロ丼なのだ。
「それなら、いっそ赤報隊(=イクラ丼)にすればいいのに〜」
「そっちは高い……」
 何しろ、すくなくとも鬼の分はこっちが支払いだ。せめて自分の分くらいは、安く上げたいと思うのが人情ではないか。
「そういうそっちは、どうするんだよ?」
「う〜ん、かっちゃん、か、でもカロリーとか考えると、源さんかなァ」
「あ、俺、一ちゃんで」
「……俺ァ山南さんで」
「……やっぱ観柳斎にしておくわ……」
 ネギトロ丼、海老天玉丼、ネギトロ山かけ丼、に観柳斎と、それぞれ決定したところで、注文し、まずは出されたお茶を飲む。
 幕末組は、もの珍しそうに店内を見回し、かけられている色紙の類や大河の役者の写真、武具などを指さしては問いかけてくる。
「あそこに写ってるのァ誰だ」
「あの絵ァ何ですよ?」
「あそこの鎖ァ、何のためのもんだ?」
 いちいち訊かれても、こっちだって知ったことではない。
「まァ、趣味のもんだから……」
 などと、適当なことを云ってみるが、生憎一向にごまかされてはくれない。
「適当なこと云ってやがるぜ」
「本当に。正直に云いなせェよ、わからねェんでしょう?」
「駄目だよ、ホントのこと云っちゃあ〜」
 ――この野郎ども……!
 と、拳を握りしめたところで、
「お待たせしました」
 声とともに、目の前に食事が供される。
「わぁ♥」
 歓声を上げて、沖田番が箸を割る。それに続いて、総司と鬼も。
「……じゃあ、戴きます」
 合掌して、そう云って。
 その後は、皆黙々と腹を満たしにかかる。
 とりあえず、味はまぁ普通だ。
 若者――あくまでも相対的に――二人は、丼飯も瞬殺で、ぺろりと平らげた挙句、添えられていた饅頭も腹に収め、食べ終わらないこちらの饅頭をも、虎視眈々と狙ってくる。
「ボぉス? もうお腹いっぱい?」
「土方さん、食が進まねェみてェですねェ?」
 と、二人して厭な笑いを向けてくる。
「まだいっぱいじゃねェよ!」
「勝手に食が進まねェとか云うんじゃねェ!」
 沖田組の魔の手をかわしつつ、何とか饅頭まで食べ終わり。
 まだ腹が淋しいことに気づいてしまう。
「もの足りねェ……」
 腹が、と云うよりも、腹と舌が、だ。もうちょっと毛色の違ったものを口にしたいと、脳が要求してきているのだ。
「あ、じゃあさァ」
 と沖田番が云って、くいと杯を傾ける仕種をしてよこした。
「……昼間っからか?」
 皆とっくに成年は過ぎているとは云え、昼の日中から酒をかっ食らうと云うのは、少々如何なものかと思う――特に、四人中二人は女なのだし。
 が、幕末組は、そのあたりのことも含めて、まったく頓着する様子がなかった。
「そりゃあいいですねェ」
「賛成だぜ」
「……そうかよ」
 三対一となれば、勝ち目などない。
「ねー、どの銘柄にする?」
「お勧めのァありますかい?」
 沖田組は、既にきゃっきゃと酒選びに入っている。
「――で?」
 おめェはどうするんだと鬼に問われ、
「……とりあえず、あしたばの天麩羅と、八海山かな」
 答えた時には、諦めの境地に入っていた。


† † † † †


同居バトン休日編、続き。
こんなに続いてるだなんて……! 一括上げしようだなんて、思わなくて正解(……)。


さて、「池田屋」です。迷いました、が、こんなもんで。
つーか、メニューを確認しようとして、サイトを開いたら、何かメニューが古いような……? あと、酒の銘柄が載ってない――まァ、どうせこないだ呑んだのにしちゃうとは思うんだけど、って昼間っから(以下略)。
しかしまァ、何を話しても、こないだのリアル勝飲み会at渋谷幕末酒場よりも危険(あれもかなり↑危険だったけど)なんだろうなァ……


そうそう、例の「新説 戦乱の日本史」(小学館)、前号の新撰組に引き続き、今号もGETしました――だって勝さんなんだもん♥
うはうはしながら帰途に着いたら、途中のサブ地下に出てた古本屋が、歴史読本をわんさか出してて♥♥♥ 新撰組の古いのと、会津戦争のと、あと勝さん! があったので買っちゃいました――¥700-の出費。ふはははは……
こないだは、別冊歴史読本の「新撰組クロニクル」(2/25発売)もGETしちゃったし、きっと23日の歴史群像Mookも買っちゃうんだろうなァ、鬼なのになァ……


その前に。
えーと、今度の8〜10日まで、私、京都に行ってまいります。いや、昨年亡くなった義祖母の納骨なんですけども。ええ、西本願寺に(笑)。
ついでなんで、壬生あたりにも行っておこうかなぁと思っています。初・新撰組の京都! 幕末関連は、長州屋敷(笑)に泊まったのと、二条城に行ったのくらい。だって、昔は安倍晴明ツアーだったからね。
今度の泊まりは土佐屋敷らしいです。とりあえず、西本願寺は絶対行くので、島田を偲びつつ見学してきますよ。壬生は――光縁寺にお参りしたいけど……何もないといいなァ、本当に。
宇治も行くのですが、そっちは平等院だもんなァ。さて。


この項、とりあえず終了。っつーか、オイ、五回目終って、まだ池田屋出てもいねェ! 一体何章になるんだ、これ……
続きは、京都に行って帰ってきてからで。
向こうから旅行記UP……できるかな……