小噺・一触即発

「おう」
「あれ、土方さん」
「そんななりして、これから出かけんのか」
「えェ、これから呑みなんでさァ」
「呑み? 誰とだ?」
「や、最近、“一触即発会”てェのを作ったんで、それの呑みでさァ。本当は今日で二回目なんですけど」
「“本当は”ってなァ何だ?」
「や、こないだあんたが高杉引きずって乱入してきたでしょう。あの呑み会でさァ」
「あァ……あん時ァ、随分人数がいたじゃねェか。あれ全部が、その“一触即発会”とやらなのか?」
「いえね、“一触即発会”自体は、俺と一ちゃん、玄蕃さんと吉田稔麿とますじと、十津川の中井さんってェお人だったんですけども」
「そりゃあ、確かに“一触即発”だ、すげェ面子だな」
「ええ。それに、今日は、以蔵と万斉さんと、伊庭のと本山さんが入りますがね」
「(ありゃあ、“万斉”じゃねぇだろ。河上、えェと……まァいいか、誰かわからァ)あァ、その辺は、あん時にゃあいなかったなァ」
「えェ、以蔵は子守がありましたからねェ。万斉さんも、都合が悪かったんで――その代りに、あん時ァ、一ちゃんの誘った、会津山川大蔵さんと横山主税さんがいたじゃあねぇですかい」
「あァ、そう云やァ……あん人たちァ、よく来たもんだな?」
「まァ、ちょっと浮いてましたよねェ、特に山川さんが。あん人の、あの辛辣な舌が凄くって、笑うしかないって感じでしたけど。横山さんは、反対に引いてましたねェ」
「それァそうだろう、あん人たちァ、会津の家老職だぞ」
「や、でも、おんなじ家老職でも、小松さんてェお人ァ、腰の低ゥい人でしたぜ?」
「……ちょっと待て」
「はい?」
「小松さんってェご家老ってなァ、ひょっとして……」
「えェ、薩摩の小松さんですよ、小松帯刀さん」
「あん時いたのかよ!」
「いましたよォ。俺ァ、思わず訊いちまいましたもん、“おかつさんたァどうだったんで?”って」
「!!!!! (おかつさんってェなァ、天璋院様のことかよ!) おめェ、それを小松さんに訊くか!!!!!」
「だって、気になるじゃあねェですかい! ……だけど、どうも小松さん、おかつさんとァ何にもなかったっぽいんですよねェ。訊いたら、きょとんとした顔してましたからねェ」
「訊かねェだろう、普通! おめェはドラマの見過ぎなんだよ!!!」
「えェ、ひでェこと云いますねェ、あんた」
「どっちがひでェんだ! ……ったく、俺の人間が疑われるじゃあねェかよ……」
「既に疑われてると思いますぜ。あんたァ、杉と取っ組み合いやってたじゃあねェですかい」
「……あれァ、杉の頭ァ撫でようとしたら、あいつがやり返してきやがるから……」
「(得意げに)ガキの喧嘩じゃあねェんですぜ?」
「五月蠅ェよ、この野郎!」
「まァまァ。――で、あんたァどうします? 来るなら来るで、一向構いませんぜ?」
「……伊庭も来るんだろ、今回は止めとくぜ。中島さんが来られるそうだから、そっちと茶でも飲んでるさ」
「……まァ、気が向いたら来たらいいですぜ。じゃあ、行ってきまさァ〜(ひらひらと走り去る)」
「おう……っておい! 腰のもん置いていけ! 危ねぇだろうが、その面子!」
「だァいじょうぶでさァ〜」
「酔っても斬るんじゃあねェぞ! ってェ、聞こえたのかよ――血塗れの呑み会なんぞ、俺ァ御免だぜ……(溜息)」


† † † † †


阿呆話at地獄の八丁目。呑み話と云うか……
何だこの、会津も長州も薩摩も新撰組もごっちゃな呑み会!
こないだの歴史読本が役に立ちましたよ〜。


と云うわけで、冥界再編(笑)でございます。
鬼たちと杉のところ、及び小松とんのところは手打ちを致しました――って云うと、極道の手打ちみたいだな(苦笑)。まァ近いものはあるのですが。
今後、杉とか久坂さんとか稔麿んとかますじとか、小松帯刀とか中井さんとか桂さんとか山川さんとか、いろいろ出てくることになるかと思われます。


ちなみに、話中の人名の簡単な補注ですが。
玄蕃さん……酒井玄蕃庄内藩中老。薩摩の連中に“鬼玄蕃”と呼ばれて怖れられた人。
山川大蔵……山川浩とも。『京都守護職始末』の草稿を書いた人。美男。
横山主税……会津公用方を作った人。死んだ時(明治元年)67歳らしいんだけど……
万斉さん……本当は河上彦斎さん。佐久間象山を殺った人。“万斉”はぎんたま〜。
吉田稔麿……松下村塾四天王のひとり。ぴすめで有名。池田屋で死にました。
ますじ……大村益次郎。勝さんの企みを阻んだ人。シロイルカに似てる。
中井さん……中井庄五郎。天満屋事件で死んだ人。居合の達人。
小松帯刀……大河では瑛.太。元・肝付尚五郎。大河をご覧のとおり。
中島さん……中島三郎助さん。元・浦賀奉行与力、箱館奉行並。登ではありません。
……と云う、よくわからない上に無駄にゴージャスな面子。
とりあえず、“万斉さん”は、鬼も総司も“万斉さん”で覚えてますよ。それはどうだ。


あ、そうそう、今月の新刊一覧を見てたら、面白い本を発見。
『評伝 大鳥圭介』(鹿島出版会)。中旬頃発売。ジャンルが「工学・工業」って、どんな評伝なの、鳥さん!
今月は他に、吉川弘文館から『伊達政宗の研究』(¥12,600-)が出るので、それまでは財布の紐を締めていかないと。
とりあえず、鳥さんの評伝は、ちらっと立ち読みだなー。


この項終了。
次は、阿呆話のキャラ表でも……(苦笑)