小噺・閑話休題 其の三

「おう、邪魔するぜ高杉」
「あれ、土方さん」
「何だ、総司、来てたのかよ」
「あんたが打ち合わせに来れねェってんで、代わりによこされたんでしょうが。……まったく、来るんなら、俺ァ帰らしてもらいますぜ」
「まァそう云うなって(云いながら、徳利を見せる)」
「おう、土方ァ。――何だ、その徳利はよ?」
「おう、今度、水戸の御隠居を主賓に、花見の宴を開こうってんでな。この酒ァどうだと思って、持ってきてみたんだ。試してみねェか?」
「無論、試させてもらうぜ(舌舐めずり)」
「そうこなくっちゃあな(ニヤリ)」
「あんた、そのためにわざわざこっちまで来たんですかい。……仕事は?」
「野暮云うねィ、やっと、こないだのごたごたが片ァついたんだぜ? 俺ァ、のんびり呑むためにちゃっちゃと片づけたんだ、ちったァ目こぼししやがれよ」
「そんなこと云って、あんたァいっつも呑んだくれてやがるじゃあねェですかい(怒)」
「まぁまぁ、そう硬ぇこと云うなって(手をひらひらさせる)」
「杉! あんたまで!」
「いいじゃねぇか、悪さ企んでやがった土佐の隠居はしょっ引いたわ、後ろで糸引いてやがったタヌキは捕まえたわで、ひとまず平穏無事ときたんだしなぁ?」
「まァ、まだ白いキツネが残ってるが、奴ァ長いものにァ巻かれる質だ、当分はおとなしくしてるだろうさ」
「……まァ、そうでしょうけどねェ」
「おい、白いキツネってなぁ何なんだ?」
伊東甲子太郎ってェ、白の好きなキツネさ。こないだのごたごたん時に、薩摩の連中が何人か斬られたろう。あれの裏で糸を引いてたのがこいつさ。ついでに云うと、その後ろにいたのが緑のタヌキだ」
「……何で“緑”なんだ?」
「語呂合わせだ、気にすんな」
「ふん――岩倉は、川路さんが引き取って下さるんだったな。……大丈夫なのかよ?」
「公家なんざ、舌先三寸で世を渡ってってァいるが、上に御門がなけりゃあ、大したもんでもねェ。それに、川路さんも、伊達に外国奉行まで務めたお人じゃねェ。大丈夫だろ」
「……そんなことを云えるのぁ、流石にお前だなぁ、土方」
「……それァ褒めてんのか、貶してんのか、どっちだ?」
「褒めてんだよ、一応な」
「……そうかよ」
「で、そっちの包みは何なんだ?」
「あァ、最近街中で流行ってるらしいんだが、明太クリーム入り笹蒲鉾と、チーズ入り笹蒲鉾だ」
「おぉ! (眼がきらり)」
「総司が旨いってェ云ってた店のもんだぜ。酒の肴にと思ってな」
「よし、呑むか!」
「おぅ。総司、杯持ってこい、杯!」
「はいはい。(と、杯を出してもらって)……俺ァ、用があるんで、ちょっと水戸んところと薩摩んところと、川路さんところに行ってきますぜ。あんたたちが呑んでるこたァ、久坂さんに云っときますよ」
「何だ、つれねぇなぁ。酌しろ酌」
「俺に酌しろってのァ、あんたくらいですぜ、杉」
「お前は面白ぇからなぁ。……おい土方、あいつ、俺によこせよ」
「……あいつァめんどくせェぞ。絶対後悔するから、止しとけって」
「……酷ェこと云いやがりますねェ、あんたのために、こんなに頑張ってる俺に対して(うるり)」
「おめェ、こないだ、俺の云いつけ聞かねェで、勝手に隣街まで偵察にいったそうじゃあねェか」
「……おっと、藪蛇(……さては崎さんだな……)」
「そんな野郎を下において、この杉が、苛々しねェでいられるわきゃあねェだろ」
「人を、切れやすいみてぇに云うなよ!」
「……や、あんたァ切れやすいでしょう」
「お前も云うか!」
「切れるだろ。――だから、な、おとなしく、偶にいじるだけで満足しとけって」
「……偶には貸し出せよ」
「偶にならな。――ほら、呑め! (と、高杉の杯に酒を注ぐ)」
「おう(一息に干す)」
「(うっわ、はじまったよ……)じゃあ、おふたりさん、俺ァ行きますんで! 後で回収しに戻ってきますけど、頼むからおとなしく呑んでて下せェよ!」
「おう、行って来い、行って来い」
「早く戻って、酌しろよー」
「はいはい。……駄目だ、久坂さんにァ、ちゃんと見といてくれって云っとこう……(戦慄)」


† † † † †


阿呆話at地獄の七丁目。
高杉登場、って云うか……!


えーと、そう云うわけで、冥界再編(笑)後のちょこっとしたアレコレとか、をすっ飛ばして、こんな小噺です。だって、(土佐の)エロ隠居とか(水戸の)暇隠居とか、白いキツネと緑のタヌキとか、そんなののアレコレを追っかけて書いてたら、鉄ちゃんの話くらい長くなっちゃいそうなんだもん!
若干わかりにくいかも知れませんが、御容赦!
しかし、杉と呑むと、どっちもぐだぐだんなるまで呑んだくれるのはどうよ――こないだまで敵味方だったのにな。ふふ。
あ、何故「明太クリーム入り笹蒲」や「チーズ入り笹蒲」があるのかは突っ込まないで下さい。総司が「篤姫」見てるんだもん、何でもありあり。


あ、そうそう、またも人物表(簡易版)を。
水戸の御隠居……徳川斉昭さん。慶喜君のパパ。ホントは早い時点で亡くなってるんだけど……
土佐の隠居……土佐藩主・山内容堂、すなわちアゴ先生のアイドル(←え)。
白いキツネ……かっしーこと伊東甲子太郎。学は深いが知恵は浅い。白尽くめが好き。
緑のタヌキ……岩倉具視。旧500円札の人。見た目、タヌキっぽくないですか?
川路さん……川路聖謨さん。江戸城開城の日に、ピストルで自殺した。
白いキツネと緑のタヌキは、もちろんうどん・そばから。
ちなみに、川路さんの下に、大久保一翁さん、もっと下に釜さんタロさん、水戸方? に渋沢栄一さん(何でこの人、鬼のことを熱く語り残してるんでしょう……)、あと道場には子母澤寛の御祖父さんがいる模様。
もちろん、土佐にはアゴ先生=武市半平太と、人斬り新兵衛(以蔵の方がかわいい)もおりますよー。


はい、この項終了。もしかしたら、微妙に手を入れるかも……
とりあえず、次は鬼の北海行で。