小噺・春宵一刻値千金

「あァ、花見の宴も終わっちまいましたねェ」
「何でェ、総司、えらく残念そうじゃねェか」
「あたりめェでしょう、俺ァ、接待に必死で、呑み食いするどこの話じゃあなかったんですぜ?」
「まァ、主賓ァ水戸の御隠居だからなァ。仕方ねェだろう、おめェらと呑みてェってなァ、水戸の隠居のご希望だったんだぜ」
「それァわかってますよ。でもねェ、土方さん、俺たちァ、水戸の御隠居の接待した上に、服部武雄の襲撃にも備えて、目ェ光らしてたんですぜ。その気苦労ったら、並じゃあありませんや」
「まァなァ。服部ァ、大した遣い手だからなァ、あすこで水戸のや川路さんなんぞを襲られた日にゃあ、こっちの面目丸潰れだったからなァ」
「そう云う意味じゃあ、宴席に入るのに腰のものを預かるってのァ、効果はありましたねェ。まァ、結局、宴のあとに襲撃されちまいましたけど」
「用心してた分、被害ァすくなかったろうが」
「まァねェ。俺と一ちゃんと万ちゃんと、玄蕃さんと稔麿の五人がかりで何とか、って感じでしたけどねェ。結局、怪我人も出ちまいましたし。……最後でケチついて、何か云われるかなと思ってましたけど、水戸のも土佐のも川路さんも、気にしてなかったみてェで、良かったですねェ」
「花見の宴ァ、お気に召したみてェだったからなァ。まァ、土佐の隠居と緑のタヌキの件の、手打ちみてェなもんだったからなァ。景気よくやったのが良かったんだろ。花も満開だったしなァ」
ハナミズキに海棠に躑躅ときましたからねェ。水戸の御隠居も御満悦だったみたいですぜ」
「おう、そのための宴席だったからな(笑)。……土佐のと武市と新兵衛と、緑のタヌキも呼んでやったからなァ。まァ、あれでひとまず、でかい揉めごとァなくなるだろ、当分は」
「まァ、そうですねェ。……あァ、そう云やァ、宴席の端の方に、何やら見たような顔が四つばかりありましたぜ」
「あ?」
「あんたの行かねェ端の方まで、酌して回ってたら、見たような顔がこっそりねェ」
「……もしや、山南さんたちか?」
「そうでさァ。ぱっつぁんに声かけられましてねェ。しかも、平ちゃんにァ蹴っ飛ばされましたぜ」
「……南さんたちァ、元気そうだったか」
「えェ。どうも、誰かがこっそり入れたみてェですぜ」
「そうか、そんなら良かった。しかし、俺もあちこち酌してまわってたが、ついぞ見かけなかったがなァ」
「“あんたが行かねェ端”っていったでしょうが。――そう云やァ、あの日の杉ァ、随分おとなしかったですねェ。俺ァまた、あんたと酌み交わして、偉いさんのいる前でぐだぐだんなるんじゃあねェかって、はらはらしてたんですがねェ」
「馬鹿、あの場でそんなことができるかよ。それに、あれだ、杉の後ろにゃあ桂さんがいたろ。杉の奴、桂さんの前じゃあカッコつけてやがるからなァ」
「あんたや俺の前だと、ぐだぐだですがねェ」
「おめェや斉藤も、こないだぐだぐだしてやがったじゃあねェか」
「どれの話ですよ?」
「(……“どれ”ってェ、そんなにあるのかよ)おめェらと河上さんとで、こっちの私室で呑んでやがった時だ。おめェら、半裸で寝こけてて、源さんに怒鳴りつけられたそうじゃねェか」
「あァ、あれァ暑かったんで、ちょっと肌けただけじゃねェですかい。しかも、ぐだぐだってんなら、あんたと杉の方がすげェでしょう」
「あ? 俺と奴が、何だって?」
「あんたたちこないだ、むこうで酒盛りやった時に、抱き合って寝てたじゃねェですかい」
「……あ?」
「だから、杉があんたに手枕してやって、あんたが杉に抱きついてて、杉の空いてる腕が、あんたの肩にかかってたって云う」
「……何でそんなことになってんだ?」
「こっちが訊きてェですよ! あんたァ、抱き癖があるのァ知ってますがね。何なんですか、あんたら」
「……俺が知りてェよ」
「……久坂さんと一緒に、あんたらの様子見た時の、俺の気持ちがわかりますかい? もう、“すんませんすんません”ってな感じでさァ」
「だから、俺が知るかってェの。……ともかく、花見ァ無事に終わったんだ、次はキツネ狩りだな」
「(……話逸らしやがった)白いキツネですねェ。――まァ、服部さんァ捕まえましたがねェ。でも、あん人ァだんまりじゃあねェですかい。“すべては自分が勝手にやったこと”とか云って――キツネの尻尾ァ掴ませねェ気ですぜ?」
「服部ァ口割らねェだろうが、篠原泰之進もいるだろ」
「あァ……奴ァ、のらりくらりと云い逃れしてやがりますねェ」
「だがまァ、服部よりァ、奴の方が吐くだろ。のらりくらりしてやがるが、ずいぶん落ちかけてるってェ聞いたぞ?」
「まァ、多少はねェ」
「物怪が出るってェ評判の、街外れの暗渠に投げ込むふりすりゃあ、奴ァ吐きやがるかな?」
「あァ、あそこねェ……物怪ァともかく、でけェ生きもんが棲みついてんのァホントの話ですからねェ。――って云うか、土方さん、ホントにあすこに投げ込んじまっちゃあ駄目なんで? 俺ァ、どうもあいつの目つきが好かねェんでさァ」
「俺も、あいつァ好かねェよ。……投げ込んじまいてェのァ山々だが、そうなると、服部が何やらかすか知れねェ。それもちっとなァ」
「まァ、あいつァそうでしょうねェ。――仕方がねェ、篠原の野郎ァ、せいぜい脅してやりますかい」
「あァ。……奴が吐きゃあ、いよいよ白いキツネ狩りだ。最後のごたごたの種が潰せるぜ(ニヤリ)」
「……ついでに、黒いキツネも狩りますかい? (爽笑)」
「……!!! てめェ、そりゃあ、俺も狩るってェことかよ!!!!! (怒)」
「おや、あんたァ、キツネなんで? (にやにや)」
「!!!!! 総司、てめェ!!!!! (殴る)」
「おっと(避ける)。……俺ァ、ちょっくら行って、篠原ァ脅しつけときまさァ(ひらひらと走り去る)」
「総司!!!!! ……畜生あの野郎、キツネ狩った暁にァ、覚えときやがれ……!!」


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阿呆話at地獄の四丁目。冥界再編、そろそろ完了?
人物については、「小噺・人物表」及び「小噺・閑話休題 其の三」をご覧下さい――その内、改訂版の人物表を載せるかな……


でもって、キツネ狩り〜。
白いキツネはもちろんかっしーですよ。黒いキツネは鬼。なので、黒いキツネは狩っちゃいかん!
えーと、篠原泰之進は、何か嫌い。かっしーとかは、何だかんだで憎めないところがある(何でだろう)のですが、篠原は写真見た時から嫌いでした――何だろうねェ。同じくらい嫌いなのはいない(タロさん釜さんは、そう云う意味では嫌いじゃない)ので、何か感じるものが……
服部武雄とかは嫌いじゃない。特別好きでもありませんが。
あー、杉と鬼のアレコレは……まァ、そんなもんだということで(汗)。っつーか、何なの、このシチュエーション……フツー抱きあわねェだろ、しかも杉が鬼に腕枕って! 鬼のが丈は15cmくらい高いじゃん! 訳わかんねェ……


何か書きたいことがあったような気もしますが、思い出せないので、この項終了で。……思い出したら、また何か書きますよ。
さてさて、次は鬼の北海行で。