小噺・茶の湯四方山

「いやァ、土方さん、こないだの月見はすごかったですねェ」
「あ? 仲秋の名月のことかよ? ……すごいったって、俺ァ、阿部さんと井伊のと一緒に、ひたすら茶ァ飲んでただけなんだがな?」
「あァ、彦にゃんァ、観月の茶ァ、えらく楽しみにしてましたからねェ。俺が行くたんびに、“茶室は見られるのか”とか訊いてきてましたから、それァもう、うっきうきだったでしょうさァ」
「ここんとこ、阿部さんと井伊のァ、結構仲良くしておられるからなァ。――しかしまァ、実際茶ァ点てたのァ、平の隊士も使う方の四畳半だったからなァ。それでも、簡単にだが懐石も出したし、まァまァだったとァ思うぜ?」
「あァ、そう云やァ、俺らの酒盛りの席に近ェとこで、あんたら飯食ってましたっけねェ」
「あァ、せっかくだからなァ、月を見ながら懐石を戴くのも一興かと思ってな。――正直、井伊のァ茶の湯にァ一家言おありだ、あんな簡略な懐石なぞ、お気に召すかどうか心配だったんだが……」
「や、ずいぶん楽しかったみてェですぜ? 先刻、彦にゃんの病室に顔出したら、また熱ゥく語ってましたからねェ」
「……ありゃあ、本当に稽古に使うような、簡単な茶室なんだがな? ……まァ、お気に召したんなら、それァそれで構わねェんだが」
「あんたァ、お取っときの茶碗出してたじゃねェですかい、掘り出しもんだったってェ、昔のお茶人の」
「ん? あァ、あれな。俺なんぞにァ勿体ねェんで、普段は仕舞いこんでるんだが――元大老と、老中首座様との茶の席だ、あれくらいのもんァ出さねェと、逆に使いどころがねェからなァ」
「普段はあんた、気楽に使える茶碗とかばっかですもんねェ」
「そう気構えて茶ァ点てても、仕方ねェからなァ」
「まァ、そうでしょうねェ。俺ァ、茶なんぞ、急須で淹れんので充分ですがねェ。――そう云やァ、勝さんも、茶室にァ出入りしてませんよねェ」
「あァ、そう云やァそうだなァ。ま、あんお人ァ、あんまり堅っ苦しいのァお好きじゃねェからなァ」
「まァ、そうでしょうねェ。……そう云やァ、こないだ、薩摩に出向してる金森さんから、茶碗やら盃やらが送られてきたじゃあねェですか」
「あァ――あん人ァ、焼き物捻んのが気晴らしらしいからなァ」
「そうらしいですねェ。で、結構あったんで、あんたが抜いた後に、皆で山分けにしたんですけども」
「おめェはどうせ、盃の方を貰ったんだろ」
「や、ちゃんと茶碗も貰いましたぜ。茶漬け碗に良さそうなのがあったんで、そいつと、盃ひとつとで」
「(点茶用の茶碗じゃあねェのかよ)……そうかよ」
「えェ。で、それを山分けんしてる時に、勝さんは盃を貰ってたんですけども」
「あァ」
「幹部連の他の方々ァ、皆茶碗だったんで、当然訊かれるわけですよね、“茶碗じゃねェのか”ってェ」
「まァ、訊くだろうなァ」
「そうですよねェ。で、勝さんが答えたのがすごくって」
「あ? 勝さん、何て云われたんだ?」
「“茶道だ、武道だってェ、何か特別な《道》があるようなもの云いしやがるが、道なんざ、人間が歩いていきゃあ、自然とそこにできるもんなんだ、わざわざ作った《道》なんぞ、歩かなくったっていい”とか云うんで」
「……はァ……それァまた、壮大な……」
「牧野さんなんかは、ちょっと憮然とした顔してたんですけども、そこで、やっぱり茶碗を貰った中島さんがですね、“そんなことを云うが、お前、本当は単にやりたくねぇだけだろう”とか鋭い突っ込みを……」
「中島さん……」
「勝さん、“そうじゃねぇ!”とかって否定してましたけど――あれァ中島さんの云うとおり、単にやりたくねェんでしょうねェ(笑)」
「そうだろうなァ(笑)。しかし、また、中島さんも鋭いぜ……(笑)」
「ねェ(笑)。……しかしまァ、とりあえず、俺も何かの時にァ、勝さんの壮大な云い訳ァ、使わして貰おうかと思いましたぜ(笑)」
「だがおめェ、勝さんだから、それでうっかり煙に巻かれそうになるが、おめェじゃあちっと、その辺弱ェんじゃあねェのか?」
「!!! ……あんた、自分が狐だからって、そんなもの云いしやがりますかい!」
「な、何で、俺の綽名が関係あるんだよ! (しかも、好きでもねェのに!)」
「問答無用! いざ参る! (拳を振り上げ)」
「うォわ、俺ァ関係ねェよ! (云いざま、脱兎)」
「待ちなせェよ! ……あァ、行っちまった、溜まってる仕事、どうするつもりなんでしょうかねェ(にやり)」


† † † † †


阿呆話at地獄の七丁目。
今回は(以前の予告どおり)お茶の話〜。


っても、まァ今回はそんなにネタがないと云うか。
武士にとって、茶道は必須の嗜みのひとつなので、(元・新撰組、つまりは生粋の武士でない連中、以外は)みんなちっとは齧ってるはずなんですが。
まァ、でも茶道具って、大した品じゃなくてもお高いんで、下級武士(旗本でも小普請組)とか浪人とかだと、生活苦もあって茶道具を持ってなかったりする(あっても質に入れちゃったりね)から、勝さんなんかも、そう云う意味で茶道具持ってなかったかもね。何しろ、若かりし頃のお住まいは、ホントに傾いてたらしいしな。
しかし、↑の壮大な云い訳は……! まァ、勝さんが云うと、尤もらしく聞こえるだろうけど、さァ。何か、タオの話にまでなっちゃってるみたいな感じが! 流石ですよ、勝さん……


そして、何気に仲良くなってる姫と彦にゃん。
でもまァ、それもありだと思うんですよね、お互い、近い時期の幕政を担当してるわけだし、似たような愚痴はいっぱいあると思うし。腹を割って話せれば、本当は意外と仲良くなれた二人なんじゃないかと思います。
だって姫、水戸の隠居が割と好きなんだよ? ところで、水戸の隠居と彦にゃんは、似たところがないでもない、ので、いけると思うんだけどなァ。っつーか、小噺内では仲良しになってますんで。
まァ、でも喧嘩はすっげェすると思う――して、ぷんすかしてても、ちょこっとしたら仲直りする、みたいな。そう云うのも、結構いいですよね。ねェ?


そう云やァ、本日の新聞(朝日です)で、彦にゃんの、桜田門外直前の手紙が初公開、とかいう記事が載ってましたね。見てみたいけど、彦根は遠いわ……元同僚のI嬢は、結構頻繁に云ってたけどね(ひ.こ.に.ゃ.ん/not井伊直弼、を見にですが)。
そうそう、職場が変わって、毎朝桜田門の駅を通っている(単に通勤途中の駅なのです)のですが。
せっかくだし、途中下車して、彦にゃんの亡くなった場所を見るのも手かなァ、と思わなくもありません。有楽町も通るので、ちょっと足を伸ばして辰ノ口(姫の屋敷のあったところ――そう云やァ、箱館陥落後、相馬とかが入牢したのも、辰ノ口の牢獄だっけね)に行くのもありですね。
いやァ、東京って、ホント幕末はいろいろあるので、見て歩く楽しみがありますよねェ。――とか云ってると、意外と行かなかったりするんだけどな、これがな。


そうそう、そう云えば、初めてはてなキーワードをチェックしてみたら――何かこのブログ、キーワード“新撰組”“土方歳三”でランキング一位、“ルネサンス”で四位に入ってるらしい。吃驚しましたよ!
はてなユーザーたくさんいるから、こんなとこ端っこだろうな、とか思ってたのに……しかも、ミラーブログ(更新停滞中/汗)の「備忘録」の方も二位とかだし!
正直、ちゃんとしたアク解もカウンターもつけてない(ケチだからね/笑)ので、いろいろ吃驚です。
まァ、今後もちまちまと(てめェのやりたいようにですが)更新していく所存ですので、宜しければお付き合い下さいませ。
と、偶には殊勝な(?)ことも云ってみておく――偶にはねー。


さてさて、この項終了。
次は鬼の北海行、いよいよ松前攻略〜。