小噺・ひとりかくれんぼ

「あれ、土方さん、その妙な皮ァ何なんで?」
「これか? こいつァ、あれだ、今朝目が醒めたら、俺の枕元にあったのさ。しかも、何でか知らねェが、でっけェ刃物と一緒にな」
「はァ」
「中にァ米が詰めてあったし、何なんだろうな、これァ――こう云う“ぬいぐるみ”なら、綿が入ってるってェのが相場じゃあねェのか」
「……もしかして、赤い糸で腹あたり縫ってありませんでした?」
「あァ、そう云やァ――しかも、長くして、腹まわりにぐるぐるっと巻いてあったなァ」
「やっぱり……」
「何だ、おめェ何か知ってんのか」
「えェまァ……ちょっと前に、“いんたーねっと”で話題んなってましたからねェ」
「で、何なんだ、これァ」
「……“ひとりかくれんぼ”でさァ」
「“ひとりかくれんぼ”?」
「かくれんぼってなァ、大勢でやるでしょう? それを一人でやるんでさァ。丑三つ時に、生米と爪のかけらを入れて赤い糸で腹ァ縫い合わせたぬいぐるみを、刃物でざくっと刺して、風呂場に置いてくるんでさァ。そん時に、“今度は××が鬼”って、ぬいぐるみの名前を云ってくるんでさァ」
「……それァ何か」
「で、湯のみ一杯分くらいの塩水を持って、押入れの中とかで息を潜めてるんですって。あ、そん時、家ん中ァ真っ暗にして、“てれび”だけつけておかなきゃあならねェんだそうで」
「……はァ」
「で、夜明けくらいまで一刻の間、ずっと隠れとくんですけども、止める時にァ、ぬいぐるみ見つけて、塩水かけて“私の勝ち”って三回云うとお終いにできるんだそうですぜ」
「……」
「でも、終わるまでの間に、いろんな怪異があったりとか、ぬいぐるみ捜しても、最初の場所になかったり、見つからずじまいだったりすることもあるそうなんですけども……(と、ぬいぐるみの皮を見る)」
「……これが、その“ぬいぐるみ”だってェのか」
「そうなんじゃあねェんですかい? ところで、あんたの持ってんのァ皮だけでしょう? 中身ァどうしたんで?」
「あァ、何か怪しげなんで、抜いて、いっつも影狩りの後に残骸流す、あの川に流してきたのさ。皮の方ァ、あんまり薄汚れてたんで、奇麗に洗ってみたんだ。乾いたら、新しい綿ァ入れるかと思ってな」
「で、刃物の方は?」
「何かヤバそうなんで、刀ァまとめてるとこに置いてんだが」
「そうですかい。……や、何かねェ、どっかで見たら、使ったぬいぐるみは火で焼いて処理しろってェ書いてあったんですけども」
「けどよ、何か可哀想だろ」
「……何が」
「ぬいぐるみが」
「……」
「だってよ、刺された上に燃やされるんだぞ、何にもしてねェのに! なら、中身抜いて洗ってやりゃあ、ちっとァましかなって思うだろうがよ!」
「……まァ、あんたが刺したわけでもねェですしねェ。――しっかし、このぬいぐるみの持ち主だった人ァ、きっと大騒ぎしてるんでしょうねェ」
「あ?」
「や、だから、“ぬいぐるみが消えたー!”って」
「あァ……」
「でも、今思ったんですけども、ぬいぐるみがこっち(=冥府)にくるわけでしょう? ったら、こっちの人間が向こうに行くことだってあり得るわけですよねェ?」
「まァ、皆無たァ云えねェだろうなァ」
「そうしたらですよ、俺とかあんたが落っこちたら、まァいいとして」
「まァ、俺やおめェは、何とかなるよなァ、“ここァどこだ? ……あァ、板橋か”とか云ってな」
「(何で板橋なんですよ)……まァねェ。でも、これが杉とかだったら……」
「……(想像中)……何か……夕方の“てれび”とかで、見ちまったりしてな、“家宅侵入罪で逮捕された、自称・長州藩士、高杉晋作容疑者(29)”とか云って!」
「“自称・長州藩士”!! (爆笑)」
「“自称”だろ! ヤバいよな、大小差して落っこちてたら!」
「でも、“DNA鑑定”とやらをすりゃあ、本人だってわかるじゃねェですかい!」
「わかるまでは、“入り過ぎたふぁん”ってェ扱いだろ!」
「まァねェ(笑)」
「(笑)……まァ、せいぜい落ちねェように気をつけるしかねェかァ(笑)」
「そうでさァねェ(笑)。ところで、そのぬいぐるみ、どうするんで?」
「ん? とりあえず、俺んとこに置いとくつもりだがな。まァ、俺んとこにありゃあ、虐げられァしねェからなァ」
「まァ、そうでしょうけども……何か、しまらねェなァ……鬼って呼ばれたあんたが、ぬいぐるみねェ……」
「五月蠅ェ! (拳を振り上げる)」
「おっと! (かわす)……まァ、大事にしてやって下せェよ〜(云いながら、走り去る)」


† † † † †


阿呆話? at地獄の五丁目。
っつーか、今回は阿呆って云っていいものなのか……とりあえず、別に私は板橋在住じゃあございません(笑)。


御存知の方は御存知かと思いますが、昨年の春あたりに大流行した(らしい)、“ひとりかくれんぼ”がネタです。っても、総司の云うとおりにやっても、多分ちゃんとはできないと思うけどね。
やり方の詳しいのはWikiとかで見て戴くとして――何て云うかさ、これ半分くらいヤバいよねって云うか。何かこう、半分くらい呪術とか、そう云うの入ってません?
すこしやり方変えたら、呪詛に使えそう、と、沖田番などは云ってましたが。
何か、呪詛は呪詛でも、やっぱ関西系だなァ(ひとりかくれんぼの発祥の地は、関西or四国らしいです)と云う感じが――関西の呪詛って、(昔、某陰陽道系少女漫画の同人やってた時にいろいろ調べたんで知ってるんですが)こう、じめっとしてると云うか、瞑い水がじわっと浸み出すような感じがありますよね……わかりたくないけど。
その点、関東以北の呪詛って、もっとからっとした感じがするような気がします。
でも、長野は独特。何か、関西と関東が混じってグレードアップしたみたいな。
……って、新撰組のはずなのに、何呪詛話してるんだ自分……


そうそう、今日、ふと思い立って、日野まで行ってきました。
何か無性に、石田寺の榧の木を見に行きたくなったので――雨降ってたけどね。
雨は降ってたけど、榧の木は枝が詰んでるので、真下だとほとんど雨がかかりませんでしたよ。触った木肌は乾いてて、じんわり温かかった……あの木、やっぱり好きだなァ。お父さんみたいとか思ったけど、あの木は雌らしいので、じゃあお母さんかァ(決して自分の両親には似てませんが)。ちょっと人生に生き迷ってる感じだったんですが、背中を押してもらったような気分になりました。
生き迷ってる時って、海とか、石田寺の榧の木とか、自然のものに触れていると、何となく肯定してもらってるような気分になれて、前向きになれます。
いっつも、どうしたいかは決まってるんだよね、ただ、押しとおすと軋轢があるので凹むだけで。
榧の木に元気をもらったので、うん、頑張っていきましょう、と思いました。やっぱりあの木、好きだなァ。


さて、この項終了で。
次は鬼の北海行――松前攻略後半戦〜。