小噺・甲賀源吾の儀

「……土方さん」
「おゥ、何でェ。……耳押えて、どうした?」
「いえね、さっき街中で甲賀さんに呼び止められて、それで耳が痛ェんでさァ」
「あ?」
「いや、あん人、すげェでっけェ声で呼ぶじゃねェですかい。で、そのまんまの声で、俺の近くで話しなさるんで、いっつもこう、耳が痛くてたまらねェんでさァ」
「……甲賀さんァ、普通の声で話してるだろ?」
「えェっ、俺にァいっつも、あり得ねェほどでっけェ声で喋んなさいますぜ?」
「……そうかなァ? (記憶にねェんだが……)」
「あれですかねェ、あん人、海の男だから、甲板の上で話すような調子でお話しんなるんですかねェ?」
「だから、俺ァ静かに話してるところしか見たことねェって」
「じゃあ訊きますけど、箱館ん時ァどうだったんで?」
箱館ん時かァ――釜さんが元気に話してたのが記憶に残ってるくらいで、甲賀さんはあんまり……静かなもんだったぜ」
「でも、あん人結構偏屈じゃあねェですかい」
「“偏屈”って、おめェ……せめて今風に“えきせんとりっく”って云えよ」
「まァともかくそんな感じでしょう? そんな静かなお人ですかねェ?」
「ま、熱くなる時ァ熱いお人だがなァ。五月蠅かったと云やァ、俺としちゃあ、海軍奉行だった荒井さんの方が……」
「あァ、あのかるゥいお人ですかい。あん人ァ、俺もちっと苦手ですねェ」
「うん、荒井さんに関しちゃあ、俺も苦手だなァ。……ともあれ、あん時俺ァ、中島さんを落とそうとしてたんで(笑)、主にそっちにちょっかいかけてたから、甲賀さんとァあんまり話せてなかったんだが――会議の時なんかに見た感じじゃあ、面白そうなお人だと思ってたぜ。話しゃあ、ぽつぽつと喋る感じでな」
「でも、あん人、いきなりてんしょん上がるじゃあねェですかい」
「あァ(笑)」
「話してると、あん人だけてんしょんあがって、俺ァ置いてけぼりにされるんですぜ? で、その後ァ勝手に“そうかそうか”とか納得してたりして――俺ァ納得できてねェってのに!」
「……そうかい」
「しかも、最近あん人、結構人の部屋でくつろいでくんですけど!」
「おめェの部屋ァ、とっくに皆に居間扱いされてるじゃあねェかよ」
「影斬り四隊の隊長連と、阿部さんだけでさァ!」
「そうか? 井伊のや、水戸の隠居も結構……」
「あれァ阿部さんの付属物なんで、勘弁してやってるんでさァ!(力説) ……それァともかく、甲賀さんですよ。どうやら、万ちゃんが図書室から借りてる本を取りに来たっぽいんですけど」
「で、何でおめェの部屋だよ?」
「万ちゃん、てめェの部屋が寒いし不便だってェんで、俺の部屋に本山積みにしといて、爐端で読むようにしてるんでさァ。あったけェし、茶もすぐ飲めるし、厠も近いんでいいんですとさ」
「河上さんよ……」
「で、甲賀さん、それ知ってたんだか何だか、まっすぐ俺の部屋に来たのはいいんですけど、そのままそこで本読みはじめやがったんで!」
「一応、本の借主ァ河上さんなんだろ? じゃあ、持ち出しできねェから読んでくのァ当然じゃねェか」
「や、最終的には持ってきましたぜ。阿部さんの指定席でくつろいでたんで、いらした時に追い出されたんでさァ」
「……まァ、仕方ねェだろうなァ」
「あんた、本当に阿部さんにァ甘ェですよねェ。……ともかく、万ちゃん、持ってかれた本“読んでなかったんだが”とか云って残念がってましたぜ」
「河上さんは、読み終わらねェのに借り過ぎなんだよ。司書の連中が“延滞が多過ぎる”って切れてたぜ。――ところでな、総司よ」
「何です?」
「思ったんだが、甲賀さんの声がおめェにだけでけェのァ、多分、おめェに“聞いてねェ”ってェ逃げ口上云わせねェためじゃねェのか」
「えェ〜?」
「おめェ、よく俺の云ったことすら“聞いてない”ってェ逃げやがるじゃあねェかよ。甲賀さん、あれを見てるんで、おめェが逃げ口上云えねェように、でけェ声で話すんじゃあねェのか」
「えェ〜? それにしたって、限度ってェもんがあるでしょう。あんな、鼓膜がいっちまいそうな大声……」
「(遠くから)沖田殿ーッ!!
「うわ!(浮足立つ)」
沖田殿、一寸用が……
「うわわ――俺ァちょっと失礼しますぜ(云うなり、脱兎)」
「お、おい!」
「(通常の音量で)あ、土方殿。沖田殿はどちらに」
「今、向こうへ行ったぜ」
「それはどうも(一礼し、立ち去る)……沖田殿ーッ!!
「はァ……総司も、それなりに大変なんだなァ……」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。今回のネタは甲賀さんで〜。


えーと、知ってる方は既に(私より)御存知かと思いますが、箱館府海軍所属、回天艦長の方です。小柄でエキセントリック、宮古湾海戦の時に小銃に撃たれて亡くなった方。
享年31、ってことは、鬼より4つ下かァ。
この方は留学組ではない(あれ、そう云やァ荒井さんってどうだっけ?)ので、釜さんとは……そんな合わなかったのかも、っつーか、それ以前に気質的に。釜さん躁鬱だもんな。甲賀さんは分裂だよね。
本によっては、例の“アボルダージュ”を発案したのはこの人、ってことになってますが――多分荒井さんのほうだったと思うんだけどなァ。中島さんならともかく(←え)、甲賀さんは、ああ云う海賊っぽい攻撃を好むタイプではなさそうなんですけども。荒井さんは軽躁型だと思うので、結構ああ云う無茶も“面白い”でやれそうですが。
中島さんは、ねェ――好きそうでしょう、あの人、ああ云うの。何たってアニキだもん(笑)。やる、もっと若ければ、あの人やったよ絶対に。


しかし、(うちの、とつけましょうかね)鬼が仲良くしてた人たちって、ちょっと変わった人ばっかのような……中島さんもエキセントリックだし、甲賀さんもそうだし。釜さん、荒井さん、沢さん的、一見バランスの取れてるっぽい人(沢さんに関しては、断固として否と云いたいが)とは、あんま合わない、っつーかとっつきにくそうに感じる、のは、鬼も変な人だからか……否定はできないところが何とも……


ところで、今年は戊辰終結140年だからか何だか、やたらと新撰組関連の漫画やら芝居やら、がもりもりで、大変にアレなカンジなのですが。
とりあえず、ここんとこ注目のYOU連載「歳三 梅いちりん」、伊庭が可愛い。こんな伊庭だったら……って、ないものねだり。
ヤングガンガン新選組刃義抄 アサギ」、鬼がカッコいいんだか悪いんだか。まとめ役っぽい感じだが、イマイチ阿呆で何ともかんとも。
あと、3月4月にやる新撰組関連の芝居に2本行く予定なのですが。
そのうち一方の原作「バラガキ」(中場利一 講談社文庫)、続きの総司篇「黒猫」が3月6日に出る模様。中場さんの総司でどう黒猫をやるのかが気になる、けどハードカバーっぽいので、買えねェなァ。あ、「バラガキ」は面白かったです、小説の方。流石にあそこまで暴力的じゃないけどね、みんなね。忘れがちだと思うのですが、新撰組、体制派なので。革命とは真逆の志向なんで。元不良の警官みたいな感じなので、テロリストとはちょっと違うのよ。
芝居の方は、「バラガキ」は何か、「遙か」のたかみち? 眼鏡のひと、の役者さんが鬼らしい――「組!」の鬼よりはなよくないといいなァ、とか思いつつ、それなりに楽しみに。
あとはめ組の新撰組……南さんが出てくるっぽいのですが、それはともかく、主役は誰なのか。こないだみたいに主役不明の芝居にはしてくれるなよ……
ところで、「薄桜鬼」の画集、3月11日発売って、本当だろうな? 遂に発行元の「電撃Girl's style」でも、予告広告消されたからな……ちょっとその辺心配です。っつーか、絵師の仕事が去年のうちに終わってるのに、何をそんなにもたついているのだ……


さてさて、この項終了。
次は鬼の北海行――いよいよ! 中島さん登場! (←そこか)