小噺・高台寺党

「あれ、土方さん、何読んでるんで?」
「あ? これか?――こりゃ、こういう本だ(と、本を掲げて見せる)」
「『新選組 高台寺党』――何でこんなもん読んでるんですか、あんたァ」
「や、たまたま見かけてな。面白そうだったんで、つい」
「それ買う前に、あんたの部屋ァどうにかしなせェよ! 源さんと姐さんが、覗くたんびに溜息ついてますぜ!」
「五月蝿ェや!――だがなァ、こいつァ、本当に面白ェんだぜ、俺も知らねェことが、いろいろ載っててなァ」
「(僅かに興味をそそられた風で)……へェ、例えば、どんなんですよ?」
「うん、例えば毛内が俺と同い年らしいとか、服部が河上さんや俺より年上だとかな」
「え、服部って、そんな上だったんですかい!」
「って、一体幾つだと思ってたんだ、おめェ?」
「俺よりァ上だろうたァ思ってましたけど、よもや万ちゃんより上だとは……」
「――“万ちゃん”って、おめェ、河上さんァ、おめェより五つばかり上じゃなかったか……?」
「良いんですよ、万ちゃんァ“万ちゃん”で返事してくれますからねェ」
「そもそも“万”ってなァ、銀魂の“河上万斉”から来てるんじゃねェかよ。……まァいい、おめェにァ、何云ったって仕方ねェもんなァ」
「失礼なこと云わねェで下せェよ。――で、何ですって、毛内があんたと同い年? ……見えねェですよねェ」
「見えねェなァ。ま、奴ァ、伊東の捕り物の時に頭ァ打って、その“りはびり”の後、性格変わったとか云う話だったからなァ」
「あァ、服部がそんなこと云ってましたねェ。昔は、もっと取っつきにくい性格だったとか何とか」
「今ァ、割と安富なんぞと似た性格になってやがるがな。――あと、内海次郎が俺より年下って、本当のことか」
「らしいですよねェ。あん人、いっつも眉間に皺寄せてるんで、怒ってんだか何だかわかんねェんですよねェ。こないだ、隊士食堂の味噌汁がつみれだったんですけども」
「あァ」
「内海さん、つみれ好きだって聞いてたのに、眉間に皺寄せながら食ってたんでさァ。好物をですぜ?」
「……はァ」
「で、あん人の眉間の皺ァ、“でふぉると”って奴なんじゃねェのかなァ、って思いましてね」
「伊東と一緒に行動してて、気苦労が多かったせいかも知れねェぜ(笑)」
「あァ、あんたと化かし合いやってるの傍から見てりゃあ、そうなるかも知れませんねェ。今ァ、伊東ァ傍にいませんけど、眉間に刻み込まれちまってるのかも知れませんよねェ(笑)」
「そう云やァ、伊東の野郎ァ、今はどうしてやがるんだ?」
「相変わらず、小松さんの下でおとなしくしてやがるみてェですぜ」
「そうか――流石は小松帯刀さんだ、ああいう曲者を巧ェこと手懐けておいでたァな」
「あんた、押しつけといて、そう云うことを(笑)。……ま、あんたにァ、そういう懐の深さァねェですからねェ」
「悔しいが、そのとおりだぜ。……って云うか、俺ァ、伊東の野郎をうざったく思わねェ奴の方が“れあ”だと思うんだがな?」
「まァねェ……平ちゃんも、野郎のこたァ大嫌いだったそうですし、聞けば龍馬にも信用されてなかったそうじゃねぇですかい。よっぽど胡散臭かったんでしょうねェ、あいつから見ても」
「まァ、ちっと蜥蜴みてェなところがあるからな、ぬめっとしたとこがな。どうもその辺が、信用ならねェと思わせるところなんだろうがなァ」
「だから、昔のあん時も、こないだのあれも、同調者が少なくってぽしゃったんでしょうがねェ」
「自業自得さ。龍馬の件にしても、この本じゃあ擁護してあるが、俺たちの仕業のように証言しやがったってのァ、本当の話だしな。――何が“高台寺党の人々にも遺族というものがある”だ、そんなもなァ、こっちにだってあるってェの!」
「そんなことが書いてあるんですかい?」
「あァ。こちとら、遺族云々の前に、生きてる内に迷惑被ってんだ、死んだ後に云われるくらい何だってんだよ、なァ!!」
「まァ、こっちだって、死んだ後にもいろいろ云われてますしねェ」
「まったくだぜ! っつーか、こないだの一件の後、どこも奴を引き取ろうってェ云わなかった段で、奴がどう思われてたかなんぞ、知れようってもんだよなァ?」
「ま、所詮はキツネですからねェ。――しかし、あんたもキツネだってのに、よくつき合ってもらえてますよねェ」
「最近俺ァ、ただのキツネじゃあねェらしいぜ」
「九尾の狐、でしょう?」
「や、誰やらが、俺を“妲妃”なんぞと呼びやがるんでな、もうキツネ呼ばわりくらいじゃあ、なァ、ふふふふふ……(虚笑)」
「あァ……あんたが米沢の鷹山公やら仙台侯やらをたぶらかしてるってェ、あれですかい」
「それだけじゃねェ、川路聖謨さんやら、薩摩の斉彬公やらもそうだってェんだぜ? そんなわけァあるはずがねェってのに、なァ?」
「やー……でもあんた、こないだ鷹山公に、そっと手ェ握られてたじゃあねェですかい」
「――あ……あれァ、なァ……」
「鷹山公に、どんな心があったかは存じ上げませんがねェ、じっと顔を見つめて、手ェ握ったとなりゃあ、あやしい噂のひとつも立とうってもんでしょうが(にやにや)」
「ううぅ……くそ、俺ァ衆道の気ァねェんだってーの!! (どかん)」
「いいじゃあねェですかい、お蔭で評議会の方も、うまくまとまってるんですし、ねェ」
「ううぅぅぅ……総司の馬鹿野郎〜ッ!! (泣きながら脱兎)」
「あれ、土方さ〜ん? ……まったく、いつまでたってもからかい甲斐があるったらねェや(にこ)」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。高台寺党、っつーか、かっしー一党の話。


高台寺党とひと括りにしてますが、冥界小噺の中では、かっしー、みき、篠原と、それ以外の連中は、きっぱりはっきり所属している場所が違うので、何かこう、微妙な感じと云えば微妙なカンジ。
最近は、割と服部とか毛内とか、好きかも、って思います。あ、あと意外と内海さん(つみれ……)とかね。
昔の御陵衛士時代は、別に好きでも何でもないんだけど。かっしーとかみきとか、篠原とかは今でも好きじゃないんだけど。
その辺は、いろいろありますから、ねェ。


話中の『新選組 高台寺党』(市居浩一 新人物往来社)は、先日某時代屋(……伏せてねェ)で見かけて、金がなかった(泣)ので、他店から取り寄せてGETしたもの。札幌×店様、その節はありがとうございました(笑)。
当然高台寺党寄りの方が書いておられるので、ああ云う(↑)話も出てきたりするわけですが、まァその辺はお互い様だよね、っつーか、先にでっち上げたのかっしーだから! 原田が下手人だとか抜かしやがったの、かっしーの方だから!
と云うわけで、↑の鬼発言は撤回致しません。しませんったらしません。
大体かっしー、結構あの当時、佐幕派倒幕派問わず、うざったがられてたような気がするんですけども。
だって、尊王攘夷の志があるのは皆の認めるところだとしても、何かその言動がさ……
だって、会津藩お抱えの浪士組=新撰組は、そりゃあ立場として佐幕にならざるを得ないのは、わかり切った話でしょう。だって、会津配下って、それだけですっげ佐幕派じゃん。そんなの、あの当時の連中なら、自明の話じゃん。
そんなところに、いくら同門の南さん&平ちゃんがいたからって、のこのこと加入するってのはさァ――ぶっちゃけ、乗っ取り企んでるとか、そう云う理由しか考えられないんだよね。
しかも、龍馬に「新撰組が狙ってるぞ」って警告して、ガン無視ってさ――どんだけ胡散臭かったの、って云う。
まァ、何でもいいんだけどー。


全然関係ない話ですが、最近出た星亮一の新書がさ――何、あの薩摩陰謀史観って。何か、怪しげな「ユ.ダ.ヤの陰謀」「ロ.ス.チ.ャ.イ.ル.ドの陰謀」的なあれこれ。
この星さんって、あの星さん(=恂太郎)の孫らしいんですけども――まっすぐなところは祖父譲りだけど、ちょっとそう云うまっすぐさはどうなの。
幾らなんでも、禁門の変とかあの辺のアレコレ、まで薩摩の陰謀だってのはどうかと思いますぜ。
この人の著書読んでると、会津にも厳しくて若干苛ッとするのですが、それって何、仙台藩士の誇りか何か? でも、確かに会津の戦い方は拙かったかもだけど、早々に奥州列藩同盟をリタイアした仙台の人間が云うとこじゃねぇだろ、とは思っちゃうのですが。
っつーか、それで今回の“薩摩陰謀史観”って――結局アナタ、どっち向いてるのさ? どうもこの人の書く本って、イマイチ、じゃない、今みっつばかり好きじゃねェなァ。
まァ、1冊買って即投げ捨てたから、もういいけどさ。
いや、これも全然云い訳なんかしませんぜ。


と云うわけで、この項終了(最近、いちゃもんつけてるばかりいるような気がするわ……/苦笑)。
えーと、明日からちょろっと会津へ行ってきます。会津戦争と、先生の遠いアレコレを、一挙に!
戻ったら、紀行書きます〜。