「風を継ぐ者」観劇記。

金出して見にいく気はまったくなかったのですが、チケットが手に入ったので、いってきました、演劇集団キャラメルボックス「風を継ぐ者」再々演。
いつもどおりネタばれあります&激烈な毒吐いてます、ので(しかし畳まない)ご注意下さい〜。


† † † † †


と云うわけで、行ってきました、サンシャインシティ文化会館。
今回は、沖田番、山南役、桜王子、元同僚(今は店舗違い)のハー様、かふ先生と、現同僚のTさん、の延べ八人で(“延べ”のわけは、二公演行ったから)。この項の日付は、一回目のでつけてます。


かなり有名な(いろんなところで言及されてるからね)お話なのでアレですが、一応ざっとあらすじを書いときますかね。
新撰組に入隊した立川迅助と、同期で入隊した小金井兵庫は対照的なふたり。立川は学問も剣もまるで駄目、足が速いのだけが取柄の男、対する小金井は昌平黌の教授を父に持ち、文武両道だがやる気がイマイチ。
迅助は、池田屋事件で伝令での仕事ぶりを評価され、その後は正式に伝令として仕事をすることになる。一方、やる気のない小金井は、適当に隊務をこなしながら、徐々に迅助に興味を覚えていく。やがて禁門の変が起こり、それをきっかけに、ふたりは事件に巻き込まれていく――とか云う感じの話(←ちょっと違うかな)。


全体の感想としては、「浅.田.次.郎臭がする……」って感じでしょうか、ね。
何て云うのかな、よく出来てはいるし、まァプロのお仕事でなくもないんだけど、どうにも偽善的な感じがするって云う。
何か、迅助がすごく“いいひと”扱いなんだよね。「壬生義士伝」の吉村貫一郎みたいな感じで。
でもさ、個人的に(とりあえず、浅.田.次.郎の書く)吉村君って、そんなに好きじゃねェんだよ(元々、本人のこともそう好きじゃないってェのに)。新撰組にいて、“いいひと”で仕事が出来るか!!! って云うのがね――それと同様のものを、この迅助と云うキャラにも感じちゃったわけですよ。
個人的に“いいひと”だったとしてもさ、ずーっと作中でそう語られるって、ダザイかよ! (自分モデルのキャラクターに対して、作中人物に「いいひとでした」って語らせちゃう感じ)とか思っちゃうんですよね。
だって、“いいひと”って、毒にも薬にもならん人間か、他に褒めどころのない人間に対して云うことが多いでしょ。現に迅助なんか、走ったと云う事実以外には、作中でもいいとこないもん。お話の魔法でそうは見えにくいけど、迅助は事態に流されてるだけで、基本的には最初の“新撰組入隊”以外は、何にも自分で決断してないじゃん。総司を殺そうとするのも、総司とともに長州藩士連と戦おうとするのも、すべて状況に流されてるんじゃん。
そんな優柔不断男に“いいひと”ってさ――それ以外の言葉で肯定しようがないからだろ?


それと、これはいっつも、他の芝居に対してもよく云ってるんですけども、何かこう、安易なんだよ脚本が。
確かに話としてはまとまってたし、ギャグも(私は笑えなかったけど)具合よく挟まれてたさ。比較に出して申し訳ないんだけど、め組とかよりもこなれてたとは思いますさ。
だけどさ、何かどうも、話の作り方が安易なんだよね。迅助が“いいひと”だとか、“生命は大事に”(DQの「さくせん」みたい/笑)とか、とか。もう、中盤の医者の娘・つぐみが総司に云ってる台詞とか、むかつきが抑えられなくって大変でした。「あたしは、あの人の病をなおしたいだけなの!」――そうですか。厭になるほどお約束な台詞だな。
芝居としてこなれてるだけに、余計にこう、やな感じがするんだよね。小手先でやってる(や、役者さんじゃなくて、脚本がね)感じがしちゃってね。


かふ先生(キャラメルボックス割と好き)なんかは、「それはあなたが幕末好きだからだよ」と云うけれど、いや、多分違うと思う。何故ならば、幕末に興味のないTさんも、同じところで引っ掛かってたから。
その“引っ掛かり”ってのは、秋吉姉弟長州藩士ふたりのキャラ立てなのですが――特に姉の美祢の方、最初と半ばと最後では、云ってることが真剣にどんどん変わってるのです。しかも2時間のうちに、劇中ではわずか一月ばかりのうちに(最後の方なんか、わずか半日で、だよ!)、です。それってどうよ。筋なんか通ってないじゃん。
長州藩士の宇部さんにしても、池田屋事件直後あたりには「我々は、長州のために戦っとるんじゃ。私怨には手は貸せん」とか秋吉(弟)に云ってたくせに、半ばくらいからは、思いっきり私怨に手ェ貸してたしな。
それと、優柔不断な迅助を一緒にしてみるとさ――何だ、このぐだぐだな筋って、って思うわけですよ。
Tさんが指摘してたとおり、あれは、“云わせたい台詞”を云わせるために、キャラ立て曲げちゃったんだよな、そうとしか思えねェ。
確かに、2時間の話をこれだけすっきりと、すとんと終わらせたのは流石だとは思う。思うけど、しかしやっぱり安易な印象は拭えなかったな、脚本家の考え方の安易な感じは。
正直、め組(いつも引き合いに出して、ホンット申し訳ない)の方が、ものの見方として安易でも、方法論的には安易ではない(だって少なくとも、キャラ立てが二転三転したりはしないもん)とは思いましたよ、マジ。


総司のキャラ立ては、「はァはァ、そうですか」って感じで納得行かなくもないところはあった(自分は武士なので〜、ってあたりは)けど、そのくせつぐみさんとかあの辺のために斬られに行くってのは、そのキャラ立て的にいかがなものか。確かにかっちゃんや鬼よりは先に死ねるさ、でも、それって“武士”のやることか? 女のために刀を捨てて、丸腰で斬られて死ぬって、そりゃあ“武士”じゃねェだろう。しかも、それに関して葛藤を見せるならまだしも――せめて、一対三(四?)でも戦ってねじ伏せてやるとかならまだしも――、迅助遠ざけて、ひとりで乗り込んでいっちゃって、刀渡すのも躊躇いなしなんだ、へぇ〜。
新撰組の”沖田総司なら、まァそうやって敵の注意をひいといて、一ちゃんとかに背後から人質を奪還させる&敵を捕獲させる、ってのが常套だと思う(現代の、対立てこもりとかと同じ作戦ですね)けど、まァ芝居だからと五万歩譲ったとしても、ああいうシチュエーションって、やっぱ前言翻してねェか?
そっち(=総司がつぐみのために斬られに行く)の方が、話として感動的(……そうかなァ)かも知れないけど、でも、これも前言翻しまくりで、結局脚本の“ご都合”なのよねって思っちゃいます。


この話って、結局、弱い人間がそれでも頑張って生き抜いていたんです、って云うのが落としどころだったんだろうけどさ――それなら、去年見たオフィス・ユーリーの「近藤を待ちながら」の方が、よっぽどそれっぽい作りの話だったよな。
役者さんは頼りない人が多かった(殺陣なんかかなりアウトだったし)けど、あの脚本は結構好きだったなァ。
来島又兵衛新撰組を作ったとか、来島に懐きまくってる新撰組メンバーとか、どう見ても悪の黒幕桂さんとか(笑)。すっごいトンデモだったけど、人間造形はトンデモじゃなかったもん。新撰組に愛着が出てきたのに、そこで桂さんから「奴らを消せ」と云われて、悩むけど手を下しちゃう来島又兵衛の、信念に生きるところと、その信念を盾にする小狡さと。一心に来島を信じて頼る、かっちゃんの馬鹿正直さと愚かさと。
ぬるくっても、予定調和でも、殺陣や演技が拙くっても、やっぱりあの話は好きだった――キャストも込みで。
だけどさ、この「風を継ぐ者」って、そういう人間把握がどうにも安易だ。でもって、一度決めたキャラクター像を、話の都合で好きに改変しているところも戴けない。
シェイクスピアテネシー・ウィリアムズオスカー・ワイルドの芝居では、話の流れ的なご都合はあっても、キャラクター像は曲げてないぜ。それが戯曲の巨匠だからとか逃げ口上を云うんなら、そんな奴ァ脚本書くのやめちまえよ!
っつーか、こないだ見て悶絶した「心霊探偵八雲」の舞台(脚本は原作者!)だって、ひどいもんだったけど、こんなことは云わんで良かったのにな。どんだけ(以下略)。


ちなみに沖田番の凄いコメントはと云うと、


若いっぽい服着て、明かり消したってごまかされねェぞ、おばはん! どんなイメクラだよ!! ……ってカンジ?」


……って、えーと、演出は今どき(アニメっぽい)のだけど、脚本の感性が古臭い、って云う意味なんだって。
ギャグなんか、今の五、六十代の感性で、ヒロインの造形もそうなんだとか――で、中身が(私の指摘したような意味で)ガタガタなのを、最初と終りだけキメて、後は演出と、達者な役者さんとでごまかそうとしてるんだけど、どうにも古臭いところが隠せてない、んだそうで。
ははははは、や、これはすげェ感想だ、っつーか、私のより全然イタいですよ、沖田番!
しかも、美祢さんについて、“こんな人格的にヤバいキャラ、舞台に上げていいんだ!”とか(妙な方向で)感心してたし。まァ確かに、あれじゃ美祢さん、人格障害っぽいよね! うん、確かにな!
しかし、「この美祢って女斬りゃあ、何もかも丸く収まるんじゃね?」ってのはさ――流石は“沖田”番だ、って、斬って何もかも済まそうとすんなよ! (笑)
ギャグに関しても、“偉い上司のオヤジギャグを、聞いた瞬間、笑えないのに笑わなきゃいけないってカンジ”とか手厳しい――ま、確かに、古いギャグでも、落語みたいには洗練されてないよな、全然な。
(こちらと作者が仲の宜しい)「風光る」は、少女漫画な分、多少古臭くっても、感性がフッツーでも、共感できるひとはいるだろうけど、これはちょっと無理じゃね? と云うのが、沖田番の感想でした。物語が時代を越えて生き続けるには、普遍的なものがちょっと結構弱いらしいよ。そうね、確かに普遍的なものって感じにくかったよなァ。


……脚本に関してあれこれ云うのはこの辺にして。
えーと、演出は、↑のような脚本でもごまかされてしまうほどの素敵な出来。シーン転換もスムーズだったし、(脚本が原因のアレコレは除いて)お話運びもよどみなくって良かった。
殺陣も、定評のあるところだけに、何の不安もなく見れました。あんなに刀の差し方気にしないで見れた芝居って、初めてじゃない?
役者さんは、やっぱ長州藩士・宇部さん役の粟野史浩さん(文学座の方だそうで)でしょう。キャラのぶれにも拘わらず、本当に宇部さんはカッコ良かった――あれでキャラがぶれてなければ、マジ惚れたなー。脚本のお蔭で、大変残念なことになっちゃいましたね。
鬼役の三浦剛さん、何故かすっごい渡辺謙を思い出しました。何でだろ。別に顔とか似てないと思うんだけど――独眼竜政宗と云うよりは、炎立つとか北条時宗な感じ。う〜む、何故。
女性陣では、迅助の叔母・たか子役の岡田さつきさんが良かった、けど、どうもあの人のちょこちょこと入る妙な仕種が駄目で(まったく駄目って云うか、量的に多過ぎでうぜェ感じ)、心底褒めるにはちょっと。
美祢役の岡内美喜子さんは、粟野さんと同じく、脚本のお蔭で大変残念なことに。あれで筋の通ったキャラだったら、結構好みだったのですが。(何か、キャラメル好きの方のブログで、「岡内さんは役と合わない、美祢ってハマればおいしいキャラなのに」って書いてあるの見ましたが――そりゃ無理だ、キャラ設定、っつーか脚本がオカしいのに、ハマる役者なんかいるわけがねェ。どんなに巧い人でも、この役にハマるのは無理だね。性格が根本的にオカしい人なら別ですが)
三鷹太夫の阿部丈二さん、いらっとさせられる(“三鷹さん”に)ところが巧いなァ――しかし、安富があれ見たら、マジ切れしそうだけど(笑)。「勘定方でも、あんな箸にも棒にもかからない腕の人間はいません!」とかってな(笑)。そう云えば、隊士のことを把握してるのは、勘定方じゃなくて監察方だけどな。懐具合どころか、廓での敵娼まで知ってそうだけどな(笑)。
主役(? なの?)の立川迅助役・左東広之さん、何故かユースケ・サンタマリア思い出しました。
語りの小金井兵庫役・大内厚雄さん、声が良い。
あとはまァ、大過ない感じと云うか。皆それなりに巧いなァと思いつつ、特段云うべきことはございません。


とりあえず、ここ二年見てきた芝居の中で、ベストはやっぱ「BARAGA鬼」だなー。あれはホントに良くできてた。脚本(上演分は、かなり削ったものらしい)も演出も、確かに「神」でしたよOさん!
次点は何と「近藤を待ちながら」。やっぱ、あれ好きだな。台本があったら欲しいくらい。「BARAGA鬼」は売ってる(買ってきてもらう予定)のにな〜。
で、め組の「新選組」が三位で、ワーストはand endlessでお願いします。皆さん納得いかなくても、私的にはこれで。ブービーは、「風を継ぐ者」と「暁の誓い」とで、かなり悩みますね……


† † † † †


さてさて、最近またいろんな漫画が出てますが。
えーと、単行本になった「歳三 梅いちりん」、いろいろ(個人的に)イタいネタが……いや、よく調べてあるからさ(苦笑)。
縁談云々のとこなんか、こないだJust云われたところでアイタタタタ。まったく、一向進歩が(以下略)とか云う、痛々しいことに。そうね、こう云うだらしない男なんですよ(笑)、鬼ってさァ。厭なことは厭なんだけど、結構他は流されがちだしねェ、ははははは。……あァ、イタいイタい。
お話自体は、通して読み返してみても、結構好きだなァ――まァ、そうじゃなきゃあ発売日に即買いはしないけど(笑)。と云うか、今回は職場の勝好きMさんが、発売前日にそっと上下巻差し出してきて、満面の笑みで「いやがらせ♥」とおっしゃったので! と云いわけしておいてみる。
伊庭が良い子。こんな良い子だったら(以下略)なのに。かっちゃんが可愛い。こういうかっちゃんだったら、きっと今でも好きだったのになァ。総司が生意気盛り(笑)。
基本的に楽しい、けど、大向こう受けのする話ではないのかも知れないなァ。って云うか、絵柄がクセがあるので、その辺がアレなのか。
ところで、ちらりと京都篇云々とか書いてあったけど――ホントに続きがあるなら、それはそれで愉しみかも。


3話目まで来た「サンクチュアリ 〜幕狼異新〜」、今回ちょっと燃え(萌え?)たんですけども!
ぎゃ、何だ、鬼がカッコいいぞ! っつーか、走った鬼を殴って「あんたがいなくなったら……」とか云う総司って……!
しかし、絵的には萌えでは全然ないんだけど(笑)。っつーか、ホントマジに淡々としてますね、野口堅さんの絵って。いやいや、しかしそこがいいんだけど。
専門(笑)用語とかが、やっぱり冲方で(笑)。あの当て字の仕方がね!
っつーか、いろんな意味で、やっぱあれは小説でも読んでみたいなァ。「ばいばいアース」的な感じの伝奇もの(だよね!)になるかと思われるんですが。集英社さん、出しませんか。――あんまニーズないか、冲方でも、時代もの(まァ、伝奇ものだけど)だと。(そう云えば、冲方の「ストームブリングワールド」が、ダ・ヴィンチ文庫から刊行されるんですね。いよいよ続きが、って、期待していいの? っつーか、MF文庫(J)の枠から外されちゃったんだ?)
今回、あんまりアレコレがツボだったので、雑誌買おうと思ったら、コンビニのリミットにやられた罠。L表記9月までだったのに、置いてるとこ皆無ってどうよ! 仕方がないので、次の号を待ちます、って云うか、早く単行本!


でもって、昔土沖描いてらした漫画家さんの連載を読むために開いた「ZEROSUM AWARD」で見つけた「斬バラ!」、単行本出てたのでGETしてみたけど、えーと……以蔵が×××? とか、結構あれこれ。
今回の雑誌に鬼が出てたのですが、こんなに優男(言葉どおりの意味で)の鬼ははじめてだ……っつーか、個人的には、あの顔は平ちゃんの方が近いと思うんですがね、って云うのは泣き黒子のせいだ、多分。
谷三十郎は、何故あんなにがっちりに描かれるんだろう、とか思いつつ、総司が昔の(直ではない)上司Mさんに似てるなァとか思ったり。
既にはんぺん、もとい瑞山先生とか龍馬とかも登場してる(っつーか、一番登場回数の多い新撰組隊士って、もしかして八十……?)ので、この先主人公たちが、佐幕倒幕どっちに傾いていくのか楽しみです。
個人的には、あとがきにあった「勝海舟と酒飲みたい」に大きく頷きたい、が、あの人幻惑の舌の持ち主だからなァ……何かに注意しないといけないので、呑む時はご用心! あと、女好きだから女性は(以下略)! ……どうよそれ。


† † † † †


そんなわけで、この項終了。
次は、お待たせ、鬼の北海行続きです。役職振ったりするあたり?