小噺・林忠崇の儀

「おう、総司」
「何ですよ、土方さん」
「今さっきここを通ってった、あの変なおっさんァ、どこのどいつだよ?」
「変なおっさん、って、俺に云わせりゃあ、どいつもこいつも“変なおっさん”ですけどねェ?」
「いや、だから、今いたろう、半袖短パンに雪駄履きで、サンドウィッチ買いに来てた髷のおっさんだよ」
「あァ……あれァ、請西藩の殿様の林忠崇様でさァ」
「え、あれァお殿様なのかよ(やべェ、フツーにどっかの家の家臣だと思って、挨拶しちまった/汗)」
「まァ、殿さまっても、戊辰戦争の後にァ、函館で開拓民やったり、商家で番頭やったりしてたそうですから、あんまり殿様殿様してねェんでしょうさァ」
「あァ――腰が低いのァ商人風だが、何かこう、くせのあるお人だよなァ。酸いも甘いも噛み分けちまった感じがするってェか……」
「まァ、そりゃあ捻ちまいもするでしょうさァ。戊辰の戦いん時ァ、あんお方、まだ二十歳だったそうですからねェ」
「……って、俺より十五くらい年下かよ! しっかし、今さっき見た感じじゃあ、とてもそんな若造にァ見えなかったがなァ? せいぜい四十過ぎってとこだろありゃ」
「や、亡くなった時にァ、九十越えてらしたそうですからねェ。もう第二次世界大戦がはじまるってェ時分ですぜ? そりゃあいろいろ見てきてて、性格も曲がっちまうでしょうさァ」
「そうか……しっかし、売店で話してた感じだと、そこまで捻曲がっちまった感じはしなかったぜ? 割とこう、軽いって云うか――うん、身軽な感じってェか」
「まァねェ。あんお人、評議会に出るってんでここに来た時も、着流しに雪駄だったんですぜ。他の皆さんが、紋付に平袴でお越しだってのにねェ。でもって、ふらっとひとりで入ってくるんで、止めて誰何してたら、後ろから藩の重鎮連が追っかけてきましてねェ。もう大慌てで、頭下げてくるやら着替え差し出すやらで」
「はァ――評議会ん時にァ、そんな奇天烈な格好した人ァお見かけしなかったたァ思ってたが……お着替えんなったってェことかい」
「そうなんでしょうさァ。見た感じ、重鎮連の方が偉ェように見えますしねェ。でもまァ、酸いも甘いも噛み分けたってェ見た目のとおり、なかなか一癖ありそうですぜ」
「まァなァ。――思い出したぜ、あれだろ、ガタが、てめェの利潤追っかけるような提案出してきやがった時に、ねっちり云って黙らしちまったってなァ、あんお人だったろう?」
「じゃねェんですかい? 先刻、彦にゃんに出くわしたら、何か感心したようなこと云ってましたぜ。中々の人物だとか何とか」
「まァ、面白そうなお人だよなァ。……うぅん、何とかお近づきになりてェもんだぜ」
「うまくいくといいですねェ(にこ)。あァそうそう、あちらさんは、あんたのこたァ“玉藻前”呼ばわりしてましたぜ」
「妲妃の次は、玉藻前かよ!!!!!!」
「まァ、どっちも狐ですよねェ(笑)」
「五月蠅ェや!!!」
「でもまァ、あの林様ってェお殿様的にゃあ、あんたそれなりに好感度高ェみてェですけどね」
玉藻前呼ばわりで好感度ってェ云われてもなァ……(仏頂面)」
「まァまァ、それでうちの敵が減るんなら、それに越したこたァねェじゃねェですかい。ところで、その玉藻前な土方さん、ちっと相談なんですけども」
「あァ? (不機嫌)」
「そう凄まねェで(にやにや)。……や、あんたの狐の妖力で、ガタァ誑し込んじゃあくれませんかねェ?」
「何でそう云う話になる! って云うか、何でガタだ!」
「や、あいつ、あんた目の敵にしてて、毎度毎度ガタガタガタガタうるせェんでさァ。御神酒が最近誑し込まれてるんで、余計に頑なになってるって云うか――」
「あ? 御神酒がいつ俺に誑されたよ?」
「誑されてるでしょう、最近あのふたり、あんたに不利益にならねェように、案件組んできてますぜ」
「そうだっけか? ……そう云やァ確かに、ガタ以外の奴が出してくる案件ァ、俺や杉あたりの考えに沿ってるよなァ、てめェんとこの利潤中心じゃなくな」
「だから、誑されてんですって! ……ねェ、土方さん、だからついでにガタも誑して下せェよ。ガタ誑し込んじまやァ、あいつァ結構がむしゃらに、あんたのためにいろいろやってくれそうなんですからさァ」
「……うゥ〜ん、ガタかよ……どうも奴ァなァ――こう、軍国主義の大本を作ったかってェ思うと、いろいろ、なァ……」
「誑しちまえばこっちのもんですって! 頑張んなせェよ! そしたら杉も、足許のとりまとめが幾分楽になるんですし」
「……わかった、頑張ってみらァ(溜息)」
「それでこそ、九尾のお狐様でさァ。頑張って下せェよ!! (切火の真似)」
「……頑張る――頑張れんのかなァ、俺……(深々と溜息)」


† † † † †


阿呆話at地獄の六丁目。脱藩大名登場。


えーと、朝日の夕刊でやってた記事でご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、脱藩大名・林忠崇殿、ご登場。
戊辰戦争後、唯一お取り潰しになった藩のお殿様です――Wiki見たら、開拓民と番頭の他に、下級官吏もやってたらしい。って云うか、お取り潰しになって、実際そうやって生きちゃうところが凄い。だって、(一応)生まれながらのお殿様なのにさ、開墾したりお客に頭下げたりしたんだぜ(まァ、ちゃんとできなかったから、職を転々としたんだとは思うんだけど)。いろいろ大変だったんだろうけど、まァ大往生だったんだよね――って云うか、四十過ぎって、ちょうど華族になったとこ(でも、“朝敵”だったんで、男爵止まりだったらしい←普通、元大名は子爵以上)だよね。うゥむ。
実はこの話、新聞の記事とWikiの他は、怪しげな(以下略)しかないので、今みっつくらい怪しいんですけどねェ、ネタが……
林さんのことが書いてある本(中公新書のアレです)が、またしても札幌×店にあったので、送ってもらってる最中……ふふふ、楽しみ。
でもさ、半袖短パンに雪駄履きってさ――何かこう、テキ屋っぽいよね。殿様なのにね。着流しに雪駄もね。
あ、ガタの件は――まァ、あんなカンジで。陸奥がいた方が御し易いのかなァ、ガタ……でも、陸奥に自動的についてくる(←逆か)龍馬が厭なんだ。引っかき回されそうで。さてさて、鬼はガタを落とせるか!?


そう云えば、「JIN〜仁〜」の初回、見ました。
大沢たかおは仁じゃない、とか思ったけど、見ていくうちに(話的に)違和感がなくなっていく不思議。でも、仁じゃないけどねー。
でもさ、あの恋人の話は余計だよ。咲さんの存在意義がなくなっちゃうじゃん。野風は好きだけど、それとこれとは話が別! 是非ともドラマでも、咲さんとうまくいってほしいんですけどねー。
小日向さんの勝さんは軽い……しかし、武田勝よりは全然……ふふ。龍馬はいい感じ。ふふふ。あれ、この龍馬、勝さん斬りに行く前だったんだ! じゃあ、例のアレが見れるわけですか、ふふふ……
しかし一点ひっかかったこと。咲さんを、母上が“あなた”って呼んでましたが――あれは“そなた”の方がしっくりくるでしょう。あと、「ちちんぷいぷい」のくだり、「言葉の麻酔」って、それはちょっと咲さん……! 順応しすぎです。その辺気になった。
でもまァ概ね良かったんじゃないかなァ――ま、原作派の人間としては、いろいろなくはないんですけどもね、ね。


あと、「ダンダラ新選組」(望月三起也 ぶんか社)も買いました。
これ、新撰組は2本だけなのね。キャラデザが結構違って、試行錯誤の後が見える、ような。かっちゃんは、ほとんど変わりがないけど、原田と総司――別人だよ。鬼は、多摩時代の話は結構違いますね。かっちゃんの次くらいに固まってたのかァ。
やっぱ「俺の〜」の方が好みだなァ(鬼がアレコレなところとか)、と思いつつ、平ちゃんのキャラデザだけは何とかしてあげて戴きたい。あの美少年が――大変残念なカンジです。
あ、「ダンダラ」の他の短編だと、「星と刀とつむじ風」「風シリーズ」が割と好きかも。


さてさて、この項終了。
次は鬼の北海行、中島さんに笑われるよ……(凹)