小噺・薩摩連中

「おう、総司、先刻表の方で、えれェ騒ぎんなってたみてェだが――あれァ一体、誰が何をどうしたんだ?」
「あァ……あれァ、面会待ちの薩摩の国父殿と、西郷どどんが大喧嘩はじめやがったんで、あの騒ぎだったんでさァ」
「あァ? 何だって、島津久光殿と、西郷の野郎が喧嘩だよ? それァ、あん二人が仲が悪ィってのァ、噂に聞いちゃあいたが……」
「あれァ、国父殿があんたにべったりなんで、そのうちなりぴーの邪魔しだすんじゃねェかって、どどんが勘繰ってやがるからでさァ」
「国父殿が、俺にべったり? そりゃあねェだろう、確かに手ェ握ってはきなさるがなァ」
「いやいや、なりぴーが、薩摩の利潤だけ求めて突っ走ろうとすると、国父様が、小松兄弟と一緒になりぴー止めるじゃあねェですかい。でまァ、そういう時ってなァ大概、なりぴーが、うちや杉が主張してる路線から外れる時じゃねェですかい。――それに、元々どどんと国父様は仲が悪いらしいんで、余計にいろいろ勘繰るんでしょうさァ」
「あすこは、何だってあんなに仲が悪ィんだ?」
「さァてねェ……なりぴーが亡くなった後の、薩摩の方針について、あれこれ揉めたらしいたァ聞いてますけども」
「はァん、それを延々引っ張ってるってェわけか。しかしまァ、国父殿がうち寄りなお蔭で、揉め事の種を事前に潰してくれるんで、俺としちゃあ大助かりなんだがな」
「まァねェ、なりぴーァ、結構野心家ですし、いきなりとんでもねェ提案とか出してきやがるんで、野放しにしておくと、ねェ。またあれで“かりすま”もおありなんで、下手なこと云い出された日にゃあ、潰すのに大わらわですからねェ」
「まァ、厄介な相手だよなァ。……たァ云え、小松兄弟と国父殿が斉彬殿を抑えてるんで、そう大変なことにァなっちゃいねェが……」
「おっと、忘れちゃいけませんぜ、加勢してくれてんのァ、久保さんもですぜ?」
「あァ、大久保一蔵さんな。確かに、あん人も西郷を抑えて、斉彬殿に諫言するよう働いてくれてるらしいよなァ」
「そうですよ。――しっかし、こないだ、小松帯刀さんと久保さんに呼び出されて呑みに行ったんですけども」
「あァ」
「行ったら、どどんが来てましてねェ。聞いてなかったんで、帰ってやろうかと思ったんですけども、あの二人に止められまして」
「ほう」
「で、坐らされて、膳が出てきて酒宴、と思ったら、どうもどどんを説得して、なりぴーに諫言させるための酒宴だったらしいんですよねェ」
「ほう」
「そんなら、俺がいたって仕方ないだろうって思ったんですけど、久保さんも小松さんも必死で止めるんですよねぇ。で、そのうちにどどんの野郎が、俺の顔じっと見て“同じ席で酒が呑めると云うのは、嬉しいことだ”みてェなこと云い出しやがりましてねェ」
「ほう」
「何かこう、俺、どどんを説得するダシにされた? みてェな感じで……」
「ははは、そりゃそうなんだろうさ!」
「土方さん……(恨みがましい目)」
「まァ良いじゃねェか、実際西郷に襲われたわけでもねェんだし。それに、斉彬殿や西郷が、うちと戦うような羽目になったら、それこそ世間が二分されて、町衆やら百姓やらは大変なことになっちまう。そうならねェための役に、おめェが立ったんなら、良いじゃねェかよ」
「そうは云いますがね、あのデカ眼のどどんにぎゅっと手ェ握られて、じっと見つめられたらあんた、俺じゃなくたって逃げ出したくなりますぜ。第一、それを云ったら、あんたも国父殿にァよく手ェ握られてるじゃねェですかい」
「まァなァ……だが、国父殿ァ、握るだけでそれ以上のこたァしてこねェし、まァ、あれぐらいならどうってこたァねェからなァ」
「川路さんや鷹山さんにァ、腰引けまくってるくせに……」
「あのお二方ァ、手ェ握るだけじゃあすまねェんだよ! 川路さんとこなんぞ、俺が奥方に睨まれるしで、散々だからなァ」
「まァ、そう云う意味じゃあ、確かに国父殿は、手ェ握ってじっと見つめてくるだけですもんねェ。……それにしても、どどんですよ……何で、俺にあんなんですかねェ……(溜息)」
「西郷の野郎ァ、変わった趣味だって云うからなァ。聞いたか、奴の寵姫だったってェ女の話。綽名が“豚姫”ってんだそうじゃあねェか」
「あァ……そうですねェ。こっちでの妾も見たことありますけど、確かにこう、恰幅がいいってェか、すげェ横幅ってェか……」
「それで“豚姫”か」
「最近の云い方じゃあ“デブ専”ってんでしょうさァ」
「しかし、おめェはそこまで横幅ねェだろう」
「だからわかんねェってんですよ(溜息)。……って云うかね、もう正直勘弁してほしいってのが、ホントのとこなんですけどねェ……(溜息)」
「まァまァ、うちと薩摩の関係のためだ、諦めて人身御供になってくれや」
「あんた、他人事だと思いやがって……(恨)」
「はっはっは!」


† † † † †


阿呆話at地獄の六丁目。衆道談義・其の参、と思ったんだけど、話が薩摩中心になったので、御覧のタイトルで〜。


今回名前の挙がってる方々は、多分鬼が“新撰組副長・土方歳三”だったら、粉かけたりはしないだろうなーと思います。や、身分が、ねェ。
まァ冥界には昔の序列もあんまりないし、第一鬼は(以下略)なので、その辺はアレコレ。
あ、そうだ、なりぴーは役職名(××守、とか云うの)知らないので、敢えて名前で呼んでますが、もちろん江戸時代にそう云うことはあり得ません。流石に、鬼に“なりぴー”呼びさせるのもどうよですしね……(←総司はいいのか)


あ、そうそう、前の項で書いた「風光る」のドラマCD、聴きました。
えーと……よもやと思いますが、「薄桜鬼」のキャストって、あれ聴いて決めたとかないですよね? 何かこう、(キャストそのものは大川さん以外被ってないんだけど)声質の似てる人が多くってびっくりしました。特に鬼と総司。平ちゃんも若干似てた、か? 一ちゃんは似てなかった、そう云えば。
そしてわかったことですが、どうも私、声優さんが苦手と云うよりは、ドラマCDの脚本の作り方が苦手らしい。何かこう、ナチュラルじゃないんだもん、流れとかが。
まァ、今回聴いたのが、例の(以下略)の脚本やった人が作った(らしい)ので、そのせいもあるかも知れませんが――しかし、「薄桜鬼」のドラマCDは別の人が書いてるだろうからなー。要は、全般的にあの手合いが苦手、と云うことだろう。うむ。


まァまァ、そんな感じで、この項終了。
次は、すみません、『坂の上の雲』初回見て、思うところがあるので、考察等。
鬼の北海行は、その次でー。