小噺・小野妹子の儀

「(跪いて)――厩戸皇子様、小野妹子、お呼びと伺い、まかり越しましてございます」
「(破顔して)おや、妹子、よく来たね」
「(胡散くせー)……して、御用の向きは」
「うん。実はこの度、隋へ使者を遣わそうと思うのだがね」
「……はぁ(七年前の続きか、ご苦労なこって)」
「お前、ちょっと行ってきてくれないか?」
「はぁ――って、えええぇぇッッ!!? (驚愕)」
「何だ、不服か?」
「(慌)いや、あの、ですね、私、冠位も低い(=大礼)ですし、そもそもそう云う対外的な交渉事とかできるような役職では……」
「安心しなさい、役職などどうにでもなる。私は、お前の実力を買っているのだよ」
「(何だよ、実力って!)……私には荷が重うございます」
「いやいや。……実はな、大王には既に許可を戴いているのだよ」
「……って!!! (だから、行きたくねーんだって!!!)」
「前回の遣隋使から七年、我が国の体制もようやく整ってきた――そろそろ頃合いだろう。この国を、隋の皇帝に知らしめねばならん。……と云うわけで、親書はこれだ。頼んだぞ(と云いながら、書状を差し出す)」
「(だから、行きたくねーんだよ、聞けよ!!)……こちらが隋に宛てた国書ですか(仕方なく受け取り、書状を開く)――って、皇子!!!」
「何かね? (にっこり)」
「(震えながら)……これ、この書状、本当に隋の皇帝に送るんですか!!!!!」
「ん? いいだろう? “日出づる処の天子 書を日没する処の天子に致す 恙無きや”とね。頭を絞って考えたのだよ(悦)」
「って云うか!!! 拙いでしょうこれ!!!!!」
「(小首を傾げて)そうかな?」
「そうですよ! 拙いですって!!! 大陸の皇帝はただひとりの“天子”です、それなのに、こんな東夷の小国の王などが“天子”を称したりすれば……」
「だが、そうでもしないと、隋は、我が国のことを一顧だにもしないだろう」
「……(えーと)」
「そして、我が国のことを皇帝の頭に刻みこんでおかなくては、いずれ我が国は、隋に併呑されてしまうことになるやも知れぬ」
「まさか、そんな――隋は遠うございますよ」
「だが、新羅百済任那などは近い――そうではないか?」
「それは……まぁ……」
「隋は、このところ高句麗に攻めこんでは退けられているのだ。今のところは、高句麗がよく保っているが、これが落ちれば、次は新羅、そして百済任那までくれば、我が国は目と鼻の先だ。そのような折に、手をこまねいているわけにはゆくまい?」
「……はぁ、まぁ……」
「と云うわけで(にっこり)、お前、この親書を持って、適当に隋に喧嘩を売ってきなさい。本当の戦にしてはならぬが、決して侮られることのないように。……いいね?」
「(無茶云うなー!!!)……皇帝が怒ったら、私、死罪になるかも知れないんですがね……?」
「うん、大丈夫、その時には、立派な葬儀をやってあげるよ」
「(死ねってか!!!)……柩には、玉をいっぱい入れてくれなきゃ厭ですよ」
「これくらいでいいのかな? (と、玉の入った袋を差し出す)」
「(受け取って)お、重……(ちらりと皇子を見る)」
「(にっこり)足りるよね?」
「(わかったよ、わかりましたよ!!!)……じゃあ、とりあえず準備にかかりますので」
「頼んだよ、妹子。あ、通事は鞍作福利に任せたからね」
「(はいはい!)……では、私はこれにて(一礼し、退出)」



「……冗談じゃねぇや、あんな危ない仕事なんぞ、引き受けてたまるかよ! (帰宅して)――おい、急いで家財一切合財をまとめるんだ。あ? 何するかって? 決まってるだろ、逃げるんだよ! ――まったく、生命あってのもの種だ、職を失くしたって、耕したり何だりでやっていきようはあるが、死んだら元も子もねぇからな。……用意できたか? じゃあ行くぞ! 皇子の追手に捕まらないうちに、さっさとトンズラだ! (荷物を担ぎ上げ、戸を開けて)……うォッ!!?」
「おや、妹子殿、準備が早くて結構なことですな。まこと、お役目熱心でいらっしゃる(爽笑)」
「はッ、秦河勝…殿ッ……! (冷汗)」
「いかにも、河勝でございます。さぁさぁ妹子殿、私どもが難波津までお送り致しますよ。(武装した兵たちに合図する)……ああ、ご家族のことはご心配なく。皇子が、ご帰還まで斑鳩宮に住むと良いと仰せでして」
「!!!!! (そりゃ、人質ってことじゃねーかよ!!!)」
「皇子は、それはそれは妹子殿のことを気にかけておられるのですよ(にっこり)。……さぁ、では、参りましょうか(妹子の肩をぽんと叩く)」
「(あああぁぁぁ……)……はい(がっくり)」


† † † † †


あけましておめでとうございます。
本年も当ブログを宜しくお願いいたします。


ってわけで、今年一発目の更新は、何と聖徳太子小野妹子でございます。
いや、何か鬼の話はどうも暗い回(ほら、野村死んだ直後だし)なので、最初の更新にはなー、と……
こっちは、沖田番の見た夢(三夜連続!)が元です。ちょっと(?)性格が悪い太子と、楽して稼ぎたい妹子の取り合わせ。河勝は、島田と安達藤九郎を足して二で割ったカンジでお願いします。
沖田番の夢の中には、もちろん蘇我馬子も出てきたようなのですが、あれだ、能の中将の面みたいな、いつも眉間に皺の寄った人だったと申しておりましたよ。ふふ……馬子……いじめたくなりますね……
まァまァ、概ね加藤和恵聖徳太子(マンガ日本史の――「青の祓魔師」のメフィストにちょっと似てますね)的なカンジですが、妹子がもっとアレなカンジ。
あ、太子は170cm overの、法隆寺釈迦三尊像に似た顔(中国風――しかし、当時はアレがイケメンだったらしい)だったそうな。妹子は特に女顔でもなかったそうです――なら何で“妹子”……?


太子をこの先書くかどうかは謎ですが、とりあえずはこんなもんで。
例のタイムラインは、鬼→暴れん坊将軍→伊達の殿→先生→十郎元雅→観阿弥→(時宗?)→佐殿→御堂関白殿→(空海?)→聖武天皇聖徳太子→ゲルマンの王オーディン(ヘイムスクリングラ的な)で、劉備(玄徳)までいくかも?
まだまだ穴があるので、さてどこまで埋まりますか……


さてさて、この項終了。
今年も宜しくしてやってくださいませ。
次こそ! 鬼の北海行で……!