神さまの左手 40

男×男の描写がございます。閲覧は自己責任にてお願い致します……


 寝椅子の上に押し倒され、胸許をはだけられた。
「レオ……」
 サライの声が熱い。
 牡の声だ、と思う。
 これが、あのサライの声なのか――ついこの間まで、自分に抱かれていた、同じ少年のものなのか。
「レオ、どう……?」
 どうとはどういうことだ、と問おうとして、
「っぅあ……!」
 追い上げられて、こぼれかけた声を呑む。
「っ、サライ……やめ……」
「止められるわけねぇだろ」
 ぬらりと舌が光るのが見え。
 と思う間もなく唇を塞がれる。
 ――くそ……
 こんな子どもに弄ばれるなぞ、と思いはするものの、いやに巧みに肌の上をなぞる指が、歯止めをかけようとする理性を押し流してゆく。
 息が上がる。抗おうとするのに、指と舌先が呼び起こす何かが、身体を震わせ、力を奪う。
「……なぁ、レオ、レオ――俺を見てよ」
 サライの声が降ってくる。
「わかる? わかってる? 今、あんたとこうしてるのが誰か」
 わかっている、と云おうとするが、声は途切れて、意味もない音になるばかりだ。
 これが“抱かれる”と云うことか、と、ぼやける思考の片隅で呟く。
 かつてヴェロッキオ師と褥をともにしていた時は、自分が抱く側であって、冷静に相手の反応を探りながら、快楽を引き出す術を学んでいったものだ。徒弟のころから独立する二十五歳まで、レオナルドの“相手”はヴェロッキオ師ただひとりであり、ミラノに来てからは幼いサライがその唯一の相手でもあった。“抱く”と云う行為に慣れていても、“抱かれる”と云うことはまったく未経験であったのだ。
 それが、何故このようなことに。
「――レオ、いい……?」
 何が、と訊く暇も余裕もありはしなかった。
「……ひ!」
 身体の中に入ってくる何かを感じ、無意識に身体が逃げを打つ。
 そうだ、“抱く”“抱かれる”とは、こう云うことではなかったか。
 自分はいつもどうしていた? ヴェロッキオ師に――サライにも。
 思い浮かべて、戦慄する。 
「止せ……いや、だ……!」
「そんなの無理だって、知ってるくせに」
 熱い呼吸が肌を撫でる。
「あんただって――あぁ、あんたはそうでもないか。でも……わかるよな? 男だもんな」
 圧迫される、だが、内側を侵すのはまだ華奢な指先なのだ。
 この先がある、と思った途端に、竦み上がる。
サライ、駄目、だ……」
 圧し掛かってくる身体を押しのけようとしながら、懇願するように云う。
「何が駄目だよ?」
「こんな、こと……無理……」
「無理じゃねぇよ」
 笑う声。
「大丈夫、絶対に酷くなんかしねぇから。だから……な?」
 受け入れてよ、レオ。
 そう云うサライを見上げると、少年は、どこか泣き出しそうな顔で微笑んでいた。
 ここで拒んだら――サライは本当に泣き出すのだろうか?
 その、一瞬の躊躇が徒となった。
「――ひぃ……っ……!!」
 身体を、何かが割り裂いてゆく。
「レオ……」
 降りそそぐ汗と唇、吐息のような声。
「レオ、わかる? 俺が中にいるの」
 問いかけに答える余裕などなかった。
「サ、サライ……」
 唇がわななく。
 こんな、こんなことが。
「駄目だ、これ以上、もう……!」
「駄目じゃねぇだろ――大丈夫だから、な?」
 ――何が大丈夫なのだ。
 と、問う暇は与えられなかった。
「……ぁあっ!」
 穿たれ、揺すられて、そこにある身体にしがみつく。
 わけがわからなくなる。今、自分がどんな姿をしているのか、どんな表情を晒しているのか。
 何も考えられない。自分の痴態も、サライの――乱れた息のわけも。
「いつもみたいに観察するんじゃないの? なぁ、レオ、レオ……」
 降り注ぐ、いつもよりも甘い声。
 溺れる、観察など、する暇もない。
サライサライ、サラ――」
 嬌声の代わりに名を呼んで、だが、その声も不自然に跳ね上がる。
 必死で伸ばした腕で、サライの首を絡め取り。
「レオ、レオ……」
 名を呼ばれ、唇を塞がれる。それに、ただ応えることしかできなくて。
「レオ、愛してる、愛してるよ……」
 言葉とともに降る接吻と、突き上げてくる律動。
 それを、欲しい、と全身で叫んでいた。
 欲しい、サライが、サライの愛が欲しい。もっと溺れさせて欲しい、呼吸を奪うほどの大量の愛を、もっと、もっと……!
 全身が、灼き切れそうなほどの快楽にのたうった。
 レオナルドは、わけもわからず声を上げ、快楽のはるか高みから失墜した。



 そして、サライの云ったとおり。
 落ち着き切った五日の後、突然悲しみがこみ上げてきて、レオナルドは安堵とともに、母を悼む涙を流したのだった。


† † † † †


ルネサンス話、続き。
何か、エロ飽きた……別に盛り上がって書いたわけじゃないので、だらだらしちゃったなァ……
っつーか、このブログで今まで書いた男×男の中で、一番BLっぽい気がする今回。やる気がないのにBLってどう云うことだ……


えーと、このあたりは、過去にこっそり持ってた『レオナルドの薔薇』と云う板(もう消滅しちゃった)に書いてた分の使い回しと云うか。もちろん大幅加筆ですがね。
っつーか、加筆してると削ったりする部分も出てきたりね……まァまァ、5年も前の文の焼き直しだから、当然いろいろ……変わってないか、流石になァ……この歳で5年だと、そうそう変わんないか、やっぱ。


前にもちらっと書きましたが、ヴェロッキオ師は受です。しかも誘い受っつーかむしろ襲い受。最澄と一緒。あの調子(→前項参照のこと)で執着されたら、まァいずれ逃げ出すよな、ってカンジが致します。
まァ先生は阿闍梨よりチキンだからね。例のサルタレッリ事件(先生24歳時)とかいろいろあって、“浮気したのか!!”とか責めたてられて逃げ出して、それもあってミラノなんじゃないのかなァ(ヴェロッキオ師はフィレンツェの仕事があって追っかけてこれなかっただろうから)と思います。
まァ、ヴェロッキオ師との房事はね――すっごい冷静に、反応見ながら致している先生しか思い浮かびませんわ。先生にとっては、解剖とあんま変わんなかったんじゃないかと――っつーか、解剖の方が面白かったか、自分の思うようにできるしな。ヴェロッキオ師って、何かうるさそうな気がする、致すやり方とかも。……偏見?


そう云えば、関係ありませんが、ちょっとたいばににはまってるかも。
かも、ってのは、腐った思考に行かないからです、っつーか、確かに公式最凶なので、あれ以上はどうでもいいと云うか。何あの兎虎。
でもまァ、ちょっとぴくしヴ覗いたりはしてます――や、阿闍梨関係のサイトやってる方が描いておられたので。
でも薔薇が可愛いので、幸せになってほしい――が、あれじゃあ公式では虎薔薇虎はないな……
とりあえず、桂先生(って云うと、どうも小五郎さんみたいですが)の話が再録されてるなら公式設定集買うかな。DVDは見ないだろうからいいや。でも、一期のOPは買いました。あの曲好きだ。


この項、終了。
次は――鬼の北海行か、いきなり考察になるか、も……?