泰範の話とか。

……唐突に、空海語り。
いや、ちょっと先生の話は考え中&若干リンクしてなくもないような……?


で、表題の“泰範”ですが。
知っている人は知っている、空海伝教大師最澄の訣別の原因となったかもしれない男、ですね。
この泰範と云う男、最澄より11、空海より4つ年下の僧(ちゃんと得度した官僧)で、元々は最澄の高弟だったのに、のち空海の門下に入り、そのまんま真言十傑とやらにも数えられちゃったりしてるのですが。
えー、空海最澄と断交するのに、この泰範宛の手紙の返事を代筆し(かなり激烈)、それが元で、泰範と最澄はもちろんのこと、空海最澄の交友も断絶したと云う、何かすごいアレコレ。


空海絡みの本を読んでると、どうも空海贔屓のひとたちにとって、この泰範の一件は、黒歴史らしいです(司馬遼は面白がってたけどね)。
ちくま新書の『空海入門』書いた竹内信夫氏なんか、すごい一生懸命「断交は、泰範の取り合いじゃなく、悉曇の学習のアレコレがネックだったんだ!」とか力説してますし、空海研究の大家(多分)の宮坂宥勝氏なんかも、泰範の件に触れてはいるのですが、どうもするっとスルーしたい雰囲気が見えます。講談社選書メチエ最澄空海』の立川武蔵氏も、泰範問題はまったく触れてないし、何かこう、どうにも触れちゃいけない感が横溢してますね。


個人的には、泰範の件は、泰範自身もう最澄が鬱陶しくなってた(司馬遼の言を信じるならば、そもそも泰範と最澄が疎遠になっていったのは、泰範が空海に師事する以前から)&空海が魅力的な人物だった(嵯峨天皇もめろめろだったしね)から、ってのがあったんだと思うんですが。
だって、泰範宛の最澄の手紙って、若いツバメに捨てられたおばちゃんみたいなカンジなんだもん。最澄本人の肖像もおばちゃんっぽいですが(←……)。何かこう、“アタシがあなたを必要としてるのよ、そんな山師なんかに入れこんでないで、早くアタシのところへ戻ってきて!”みたいな……鬱陶しいよ! すがりつく女みたいで、とても“伝教大師”の手紙とは思えません。
泰範が空海に惚れこんでたってのは、空海の死後も高野山に留まって、寺(高野山ってのは、官寺ではなく、空海の私寺だったそうですね)の運営に携わってたってので、推して知るべし、かなァと。


で、もうひとつの懸案の、例の“理趣経借経”の件なのですが。
こっちはねー、はっきり云って、最澄が悪いと思う。何か、いろいろ見てると空海悪人っぽく書いてる本とかありますが、あれは空海に理があると思います。
だってさ、そもそも“密教では、書物だけで知ろうとすることは罪”(越三昧耶と云うらしいですね)だって、空海はちまちま書き送ってるじゃん。
しかも、そもそも最澄は、自分の立ち上げる教義=天台で、当時の日本の仏教をまとめ上げたいと云う欲望があって、そのための布石として密教が欲しかったから空海に近づいたのであって、結局我欲でしかなかったんだよね。
それで、まだ真面目に修行してれば良かったろうけど(それはある種の誠意だ)、修行もしないで経典だけ筆写して、ってのは、確かに空海からしてみれば、密教を盗み取ろう(しかも自分のために)としているとしか思えないよね。


最澄は真面目で人柄が良い、とか云うけど、人柄の善し悪しではカバーできないことってあると思うのですが。
って云うか、自分に引き付けて考えてみたら、最澄の行為って許せます? 例えて云うなら、卒論を手伝ってくれてた友人が、気がついたら自分のテーマを取り込んだ論文を先に出そうとしてた、みたいなケースだったらどうですか?
私は許せないと思うね。しかも、自分が本当に大事にしてるものであればこそ、余計に許せないと思います。
今の研究者とかは、最澄が基礎を築いた延暦寺の知のアーカイヴの価値を前提にしているから、空海の態度を非難するけれど、同時代人として考えてみたら、絶対に非は最澄にあると思いますね。


しかしまァ、両者の倫理的なアレコレとかは措いて、空海の手紙……ちょっと苦笑。
いえ、何かこう、こういう手紙(っつーかメール)出したことあるなァ、って云うのが……(苦笑) っつーか、泰範のアレみたいなのも、若干身に覚えがなくもないし。ははは……
うん、多分、アレ(=例の理趣経借経お断りの手紙)って、“これで最澄と断交になってもいい!”って思って書いたんだろうなァ、って云うのが透けて見えるカンジで、笑えると云うか笑うしかないというか。
っつーか、私とキレ方が似てるんだよね、空海って。うん、溜めてからキレるのは止めよう、って思うんだけど、まァ無理だ。そうそう人間変われません。こないだも職場でキレたしな。甘い顔をしているつもりはないのだが、何故こっちがキレないと行動を改めないのだろうか。っつーか、5分でやれる仕事を何故やって帰らんのか――しかも残業までしてて。残業代を払うのは私じゃないが、しかし、私より1.5時間もあとまで勤務時間があり、5分で終わるようにしてやってなお且つ翌日「終わりませんでした」って置きっぱなし、ってのは、キレていいと思うんですがね?
……すみません、これは愚痴だ。


ってわけで(←どんなわけだ)、ちょっと空海の短い話を書くかも知れません。
空海最澄と泰範の話、っつーか、泰範をめぐるあれやこれや、って云うか。
腐女子向けっぽいつくりになるかもなので、空海最澄を真面目に信奉している方にはお勧めできない話になるかと思われ。
ふふふ、成長したサラみたいな泰範(もっとえろえろ)と先生的な空海、そして何とヴェロッキオ師的おばちゃん風味な最澄、と云う取り合わせで。
うふふ、楽しい話(←私だけね)になりそうだわ……
とりあえず、どっかの図書館に『遍照発揮性霊集』入ってないかなー……


ってわけで、この項終了。
すみません、次こそルネサンス、サラ視点で!