左手の聖母 7

システィーナ礼拝堂天井画の完成後すぐ――翌年二月二十一日、ユリウス二世が逝去した。69歳だった。 次に法王に選出されたのは、ミケランジェロの幼なじみ――ロレンツォ・イル・マニフィコの次男、ジョヴァンニ・デ・メディチ枢機卿だった。 ジョヴァンニ――新…

左手の聖母 6

ボローニャへ到着すると、ミケランジェロを待っていたのは、ユリウス二世からの、ブロンズ像制作の依頼だった。 等身大を超える青銅の法王像を、サン・ペトロニオ寺院の正面に据えつけよと云うのだが、正直に云って、ミケランジェロは気が重かった。ブロンズ…

左手の聖母 5

「カッシーナの戦い」の画稿が完成したのは、一五〇五年の一月末のことだった。 正直、ミケランジェロとしては、既に勝負の見えた話ではあったのだが、ともかくも、持てる技術をすべて使い、すべての霊感を注ぎこんで描き上げた画稿だった。 翌二月に画稿を…

左手の聖母 4

ミケランジェロが画題に選んだのは、フィレンツェ軍がピサ軍とぶつかった、いわゆる「カッシーナの戦い」だった。 百五十年ほど昔のこの戦いの図は、実は、フィレンツェ軍勝利の絵図ではない。 一三六七年七月二十九日、ピサと戦っていたフィレンツェ軍は、…

左手の聖母 3

使者の用件は、絵画の依頼だった。 フィレンツェ市庁舎――パラツィオ・ヴェッキオ内の五百人会議室に、フィレンツェの勝利を記念する壁画を描いてくれと云うのだ。 「――しかし、それは今、レオナルド・ダ・ヴィンチが請負っているのではなかったか?」 皆の知…

左手の聖母 2

報復はすぐにきた。それも、まったく思いもよらないかたちでもって。 その日、ミケランジェロは、作業を終えて、己の部屋に戻るや、行き倒れのように床で眠ってしまったのだ。 彼の常として、一度眠りにつけば、耳元で喇叭が吹かれようと目覚めないほどであ…

左手の聖母 1

「ミケランジェロが説明してくれるでしょう」 画家のその言葉を聞いた瞬間、かぁっと頭に血が上るのを感じた。 「あんたが説明すれば良いだろう、レオナルド!!」 思わず怒鳴りつけてしまったのは、今から思えば、多分、恥かしかったからだ。 この自分、売り…

ラファエロ展。

と云うわけで、やっと日付が近づきました、国立西洋美術館のラファエロ展観覧記です。 が、今回は、展覧会観覧記のくせに毒吐いてますので、ラファエロお好きな方は回避お願い致します…… † † † † † えーと、GWあけは先生の展覧会を見に行きたい(アトランテ…

エル・グレコ展。

っと云うわけで、めっさ過ぎてますが、エル・グレコ。 流石に記憶が薄い(図録も買わなかった)のでさらっと、さらっと。 えーと、チケットはだいぶ前に買ってたのですが、いろいろあってこの時期に。 平日ですが、やっぱり結構混んでた! 全体的な印象として…

神さまの左手 43

「出かけるぞ」 と云われて、サライは少々驚いた。 時刻がもう夜の九時になろうかと云う頃合いだったからだ。 「今から?」 「今からだ」 酒場に行くのかとも思ったが、それにしては少々よれた服を着ている。色褪せた上着、手には重たげな頭陀袋。酒場と云う…

仏蘭西革命四方山。

はいはい、と云うわけで、予告どおり、フランス革命の話。 話じゃないのは、あと一週間足らずで一章分とか上げられるわけないからです。とか云ってたら大晦日になっちゃった……ゴメンナサイ でも、フランス革命も、かれこれ二十年ほど引っぱってるので許して…… ま…

北辺の星辰 67

四月二十九日、歳三たちは、二股口から箱館へと撤退した。 敗退したわけではない。箱館との途上にある矢不来が落とされたため、孤立することになる二股口の陣を捨てて戻るよう、榎本から通達があったのだ。 ――ま、負けたわけじゃあねぇからなぁ。 どちらにし…

「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」展。

ってわけで、今さらですが! 3/31〜6/10にBunkamuraザ・ミュージアムで開催されておりました展覧会&記念講演会の感想など。 結構毒吐いてます、ご注意! ダ・ヴィンチ展自体は、結局3回いきました――だって、アイルワース版! 今日(9/28)の夕刊で、あれが先…

神さまの左手 42

※事後です。ご注意!! それに気づいたのは、気だるい熱が徐々に冷めてきてからのことだった。 サライの手が、いつもと違っていた。 それだけと云えば、それだけのこと。 だが、レオナルドにとっては“それだけ”などではありはしなかった。 これが、普通の、昼…

奇しき蓮華の台にて 〜紅〜 四 (完)

弘仁七年は、最澄にとって、大きな節目の年になった。 奈良の僧綱の隠微な厭がらせによって、天台一乗の布教は進まず、その上、奥州に在る法相宗の僧・徳一が、天台の教義についての疑問を記した『仏性抄』を送ってよこしたのだ――法相は、南都六宗の中でも大…

真言古寺巡礼 その3

ってわけで、京都最終日。 お暇と心の余裕のある方は、続きをどうぞ。

真言古寺巡礼 その2

ってわけで、京都二日目です。 お暇と心の余裕のある方は、続きをどうぞ。

真言古寺巡礼 その1

ってわけで、京都です。 ホントは行く前に最澄の話を上げたかったのですが、風邪で倒れてたので……これが終わったらupしますわ。 お暇と心の余裕のある方は、続きをどうぞ。

北辺の星辰 66

日が暮れるあたりから、戦場には雨が降り出していた。 「参ったな……」 雨が降れば、弾薬が湿気て、使い物にならなくなってしまう。敵方もそれは同様だろうが、何しろこちらは補給も薄い、あるものは無駄なく使いたい。そのためにも、弾薬を濡らしたくはなか…

神さまの左手 41

「おにいさん、おひま?」 声をかけてきたのは、派手々々しい色合いの安っぽいドレスを身にまとった、見るからに娼婦とわかる女だった。 レオナルドが、イル・モーロの晩餐会に呼ばれていってしまい、暇をもてあましたサライは、ミラノの街中へふらふらと出…

理趣経と理趣釈と蘇悉地経、とか。

ってわけで、予告どおりお経の話。 っても、もちろん私、哲学科とか仏教系大学とか行ったわけじゃあございませんので、いろいろ読んでの感想的なアレコレです。専門の人から見たらちゃんちゃらおかしいかも知れないけど、まァそこはそれってことで。 で、理…

奇しき蓮華の台にて 〜紅〜 三

最澄は、密教を、叡山にいながらにして学ぼうとしていた。 となれば、むろんその方法は、空海の求める面授――師と対面して直接に教えを受ける――ではなく、書物による筆授である。 幸い、大日経は手許にあるし、金剛頂系の重要な経典である『理趣経』――正式に…

北辺の星辰 65

南軍の部隊が天狗岳を急襲したと云う知らせがあった時、歳三は、台場山で胸壁の点検をしているところだった。 むろん、既に遠く銃声の響くのは聞こえていたが、本格的な交戦に入ったと聞くのは、いよいよだと云う気分にさせられる。 「敵襲か!」 叫んで、大…

真言双山行 3

ってわけで、高野山とか東寺とか、最終日。 お暇と興味がおありの方は、下からどうぞ〜。

真言双山行 2

ってわけで、高野山とか、二日目。 お暇と興味がおありの方は、下からどうぞ〜。

真言双山行 1

ちょっとタイトル変ですね…… ってわけで、またしてもお山+東寺…… お暇と興味がおありの方は、下からどうぞ〜。

獅子の山 1

短い声を上げて、父は石の床に倒れ伏した。 敷き詰められた石の上に、鮮やかな赫が広がってゆく。 「……カ、カッサパ……おまえ……!」 驚愕に見開かれた父の眼が、こちらを睨みつけてくる――刺したのは、従兄の剣であると云うのに。 「おま、おまえが……ッ」 そう…

スリランカ史覚書。

シーギリヤっつーかカッサパ王関連の覚書的な。 完全俺得企画ですが、宜しければどうぞ。 † † † † † えーと、とりあえず手に入れました、『小王統史』=邦訳スラヴァンサ。あ、必要な分だけ国会図書館でコピーですよ、もちろん。何と、『南伝大蔵経』と云う…

神さまの左手 40

※男×男の描写がございます。閲覧は自己責任にてお願い致します……

奇しき蓮華の台にて 〜紅〜 二

※ぬるいですが男×男描写がございます。最澄がお好きな方及び天台宗の方は、お読みになられない方が宜しいかと思われます…… 叡山へ戻って一息ついた十一月五日、最澄は、泰範へと文を出した。 「比叡山の老僧・最澄、敬って白す。 受法灌頂すべき事 右、最澄…