2008-01-01から1年間の記事一覧

神さまの左手 6

レオナルドにとって、絵を描くことの次に愉しいのは、実はお祭り騒ぎだった。 お祭り騒ぎと云っても、その騒ぎそのものが好きだと云うよりは、祭りの非日常性――例えば仮面をつけての華やかな舞踏会、人びとの衣の翻る艶やかな様、異形を模した仮面のかたち、…

北辺の星辰 29

辿りついた蝦夷の大地は、一面の白だった。 黒々とした海と、小さく砕ける白の波濤、その漣とも見まごう先に、白の大地が広がっている。 「他の船は……」 呟いて、風雪の向こうを透かし見るが、あたりには長鯨一隻が見えるのみだ。他艦は、どうやらこの雪風に…

小噺・小栗上野介の儀

「……ッくしゃん!」 「おや、風邪ですかい、土方さん」 「いや、誰かが俺の噂話してやがるに違いねェ。しかも、良い噂とも思えねェ……よもや、例の小栗何たらか……?」 「あァ、小栗さん。こないだから五月蠅く云ってきてますもんねェ、阿部さん返せの何のって…

神さまの左手 5

さて、下塗りをしろと云われたからには、ともかくもやらねばなるまい。 サライは筆をとり、皿の上に溶かれた顔料を、ぐっとすくって画板に塗りつけた。 レオナルドは“下塗りをしろ”とは云ったが、どのくらいの顔料をどう塗っておけと云う指示は出してこなか…

北辺の星辰 28

十月十日、幕軍は、折ヶ浜に碇泊する開陽、回天、蟠龍、神速、長鯨、大江、鳳凰の各艦船に乗りこみ、船中で二泊ののち、蝦夷地へ向けて出発した。 新撰組は、このうちの大江丸に乗りこんでいた。 大江丸は、開陽や回天などと違い、通常の輸送船で、その意味…

小噺・千客万来

「……さァて、どうしたもんですかねェ、土方さん」 「何のことだ――ってェ、もしや阿部さんのことか」 「えェ、元・老中首座ともあろうお方が、俺らなんぞの屯所に逃げこんじまったんで、川路さんの下あたりが、返せってェ大騒動じゃあねェですかい」 「まァ、…

神さまの左手 4

ジャコモ――サライは、レオナルドの職業を“画家”だと聞いていたのだが、実際に絵筆を握っているのを見たのは、引き取られてからそれなりに経ってのことだった。 レオナルドは、とある若い音楽家から頼まれて、かれの肖像画を描いていた。 レオナルドお得意の…

「近藤を待ちながら」観劇記。

っつーわけで、またも新撰組関連の芝居の感想を。 SPACE 107で上演の、Office-Urey「近藤を待ちながら」です。これが春の幕末観劇ツアー(?)ラストです。 またしても、ネタばれを含む&毒吐いてます(しかし畳まない)ので、ご注意! † † † † † 実はこのお芝居…

北辺の星辰 27

九月も末ちかくになって、歳三は、新撰組と合流した。 新撰組は旧幕軍とともに、しばらくは松島に駐留していたのだが、この日、里村島と呼ばれる島にある、里ヶ浜へと転陣することになったのだ。 塩竃に駐留することになった幕軍本隊とともに、ここで仏人士…

小噺・旗幟不鮮明

「土方さん、白いキツネァ行っちまいましたねェ」 「あ? あァ、小松さんが引き取ってくれたお蔭でな。……しかし、最初ァ渋ってたってェのに、よくもまァ、応じてくれたもんだなァ。しかも、伊東、三木、篠原と三人もなァ」 「その代わりに、いろいろ便宜を図…

神さまの左手 3

レオナルドは、行き詰っていた。 何に? ――スフォルッツァ公騎馬像に、だ。 もちろん、レオナルドとても、ブロンズ像の鋳造に携わったことがないではない。だがそれは、あくまでも師であった故・ヴェロッキオの手伝いが主であって、自分が主体となってやった…

日野新撰組まつり行。

何となく入れた有休がもぎ取れたので、行ってきました、日野新撰組まつり。つっても、今日だけなんですけども。昨日も休みだったので、流石に3連休はできねェよ…… 五月の各資料館と云えば、刀の刀身の展示! 去年(……そう云や、去年は五月五日に行ったよな………

小噺 人物表 改訂

と云うわけで、冥界再編(笑)もほぼ終了しましたので、この辺で人物表の改定など。 や、単に話を書くには(以下略)なので、なんですけれども。 前回より更に重いので、畳んでおきますよ〜。

「神殿」観劇記。

っつーわけで、新撰組関連の芝居Part2の感想を。 東京芸術劇場小ホール1で上演中の、and endless「神殿」です。 またしても、ネタばれを含む&毒吐いてます(しかし畳まない)ので、ご注意! † † † † † 実は今朝、昨日の観劇記を読み返して、結構感情的に書…

「堕天」観劇記。

はいはい、キリがいいところで、本日見てきた新撰組関連の芝居の感想を。 東京芸術劇場小ホール1で上演中の、and endless「堕天」です。実は、明日は続編の「神殿」なんだ…… とりあえず、ネタばれを含む&毒吐いてます(しかし畳まない)ので、ご注意! † † †…

北辺の星辰 26

松本良順医師と再会したのは、それから幾日も経たぬうちのことだった。 幕軍は松島へと転陣した後だったが、歳三は、仙台藩との事務連絡や、降伏者についての申し送りなどもあって、未だ仙台城下に留まっていたのだ。 そこへ、米沢から松本医師が訪ねてきた―…

小噺・春宵一刻値千金

「あァ、花見の宴も終わっちまいましたねェ」 「何でェ、総司、えらく残念そうじゃねェか」 「あたりめェでしょう、俺ァ、接待に必死で、呑み食いするどこの話じゃあなかったんですぜ?」 「まァ、主賓ァ水戸の御隠居だからなァ。仕方ねェだろう、おめェらと…

神さまの左手 2

何だ、この人。 ジャコモの率直な感想がそれだった。 ミラノへ到着して、早半月。 “神さま”だと思った人、すなわち画家であるレオナルド・ダ・ヴィンチと、ミラノで暮しはじめてから半月が経った。 こちらへ来てからしみじみ実感したのだが、どうやらレオナ…

北辺の星辰 25

歳三の許を訪れたのは、桑名藩士・森常吉と云う男だった。 森は、京都所司代で公用人を務めた人物で、年齢も歳三よりはかなり上――おそらく十ほどは上――であろうと思われたが、その立場などなかったような腰の低さで、頭を垂れてきた。 「お久しゅうございま…

小噺・閑話休題 其の三

「おう、邪魔するぜ高杉」 「あれ、土方さん」 「何だ、総司、来てたのかよ」 「あんたが打ち合わせに来れねェってんで、代わりによこされたんでしょうが。……まったく、来るんなら、俺ァ帰らしてもらいますぜ」 「まァそう云うなって(云いながら、徳利を見せ…

神さまの左手 1

これは本当に、いい拾いものをした。 フィレンツェ出身の画家・レオナルド・ダ・ヴィンチは、ミラノへの帰途の荷馬車の上で、こっそりとほくそ笑んだ。 ミラノの領主、ルドヴィコ・スフォルッツァ、通称イル・モーロの命により、パヴィアの街にドゥオモ建設…

北辺の星辰 24

蝦夷地に渡ると決まってからは、松平太郎の動きは迅速だった。 まずは、各艦船の収容可能人数を割り出し、渡航可能なおおよその人数――それは、千人ばかりになるだろうとの話だった――をはじき出す。 「千人と云うと、現在の幕軍のほぼ半分ではありませんか」 …

小噺 人物表。

いや、冥界再編(笑)も進んでますので、この辺でいっちょ人物のおさらいなど。 やー、倒幕佐幕入り乱れてますよ〜。 人数が多くて重いので、畳んでおきます。

小噺・一触即発

「おう」 「あれ、土方さん」 「そんななりして、これから出かけんのか」 「えェ、これから呑みなんでさァ」 「呑み? 誰とだ?」 「や、最近、“一触即発会”てェのを作ったんで、それの呑みでさァ。本当は今日で二回目なんですけど」 「“本当は”ってなァ何だ…

同居バトン ED

数日後、土方歳三と沖田総司は、それぞれの時代に帰っていった――ようやっと。 ――あァ、清々した。 などと云うと、鬼や総司を好きな、元&現同僚諸嬢に怒られてしまいそうだが。 しかし、実際に連中と暮らしてみれば、そんな甘いことは云ってなどいられない。…

同居バトン 休日編 9

日野高校のバス停近くのコンビニであたたかい飲み物を買いこみ、そこから曲がって、東へ歩いてゆく。 このあたりは、やはり昔からの住民が多いものか、割合に一戸の区画の大きい家が多い。「土方」の表札もちらほらと見受けられるが、大体が「土」に「ヽ」が…

「Warriors」観劇記。

えーと、休日編は1回だけパスして(あたしだって、たったと終わらせたいんだ!!)、本日見てきたお芝居の感想を。 昨日から池袋の東京芸術劇場小ホール2でやってる、劇団め組の「Warriors」です。 ネタばれを若干含みますので(でも折り畳まない)、これからご覧…

同居バトン 休日編 8

そろそろ暮れてきた空気の中を、足早に石田へと向かう。 来がけに通った親水遊歩道を逆に歩き、モノレールの下の道に出る。 浅川――多摩川の支流である――にかかる新井橋にさしかかると、学生服姿の少年たちが、自転車で橋を渡ってくるのが見えた。少年、と云…

同居バトン 休日編 7

池田屋から高幡不動までは、歩いてほんの1、2分の距離だ。途中の店――並ぶ菓子屋など――にひっかからなければ、すぐに山門が見えてくる。 が、 「あ、かるめ焼きじゃねェですかい」 「“昔ながらの”って書いてあるねー。あ、金平糖♥」 「この可愛いのァ、飴玉…

同居バトン 休日編 6

とりあえず、酒は沖田組が久保田、鬼とこちらが八海山、つまみはあしたばの天麩羅でいいと云うことなので、それに決定。 注文すると、店の女性は、小皿の上にコップを置いたものを人数分運んで来、さらに一升瓶を2本――まァ、2種類と云うことだ――抱えてくる…